「チェルノブイリ〜東電〜浜岡」

  私は、少なくともこれまでは、決して明確な原発反対論者ではありませんでした。しかし、チェルノブイリ事故の当事国であるロシア・ウクライナ・ベラルーシの研究者であり、福島原発事故を同時代に体験し、また故郷の静岡県には浜岡原発が立地していることから、このまま安閑としていていいのだろうかという焦燥感が、今さらながら募ってきました。

 そこで、本HPに、「チェルノブイリ〜東電〜浜岡」と題し、原子力に関連した情報発信のコーナーを設けることにしました。まあ、私が日本の原発について語っても仕方がないので、ロシア圏の話題が主になると思います。そんなに本格的なことはできそうもなく、何か目に留まったことがあったら、簡単に紹介する程度でしょう。

 なお、タイトルですが、私は「福島」という地名が今回の原発事故と結び付いてしまうことはあまりにも気の毒だと思っているので(今からでも原発を改名すべきと考えている)、あえて「東電」にしています。

(2011年5月)

 

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No.0030:2011年12月31日:原子力に関するロシア世論

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No.0029:2011年10月1日:牧之原市の英断

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No.0028:2011年10月1日:シェールガスは代替エネルギーとして有望か

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No.0027:2011年9月3日:ウクライナは再生可能エネルギーの可能性を1%しか活用していない

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No.0026:2011年8月18日:ミス原子力

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No.0025:2011年7月24日:EUの原子力政策

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No.0024:2011年7月19日:ソビエト人の物語

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No.0023:2011年7月13日:ベラルーシ国民、原発建設についての意見は割れる

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No.0022:2011年7月13日:ベラルーシは放射能克服の模範国家か?

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No.0021:2011年6月29日:ウクライナの一風変わった原発抑制論

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No.0020:2011年6月26日:ベラルーシには新エネルギーの可能性がある

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No.0019:2011年6月25日:浜岡原発のどこが危険か

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No.0018:2011年6月23日:ウクライナの新エネ促進は火力依存低減が目的

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No.0017:2011年6月22日:ロシアはIAEA閣僚級会合の結果に満足

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No.0016:2011年6月11日:キリエンコ講演、原子力の3つの課題を掲げる

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No.0015:2011年6月9日:ニジェゴロド原発への反対運動

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No.0014:2011年6月2日:ウクライナが原発をやめられない理由

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No.0013:2011年5月21日:劣化ウランはトムスクへ

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No.0012:2011年5月21日:終わらないウラルの核惨事

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No.0011:2011年5月18日:ウクライナで一番若い都市スラヴティチ

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No.0010:2011年5月16日:ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」

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No.0009:2011年5月16日:ウクライナの放射能汚染地図

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No.0008:2011年5月14日:ラトビア>ロシア>ウクライナ>ベラルーシ

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No.0007:2011年5月14日:原発は安くない

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No.0006:2011年5月14日:NHK-BS「シリーズ チェルノブイリ事故 25年」

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No.0005:2011年5月8日:ロシア・NIS諸国の発電内訳

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No.0004:2011年5月7日:完全廃炉のその日まで

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No.0003:2011年5月5日:統計で見るベラルーシのチェルノブイリ被害

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No.0002:2011年5月4日:アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り ―未来の物語』

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No.0001:2011年5月2日:原子力についての個人的立場

 

No.0030 2011年12月31日

 2011年には、東日本大震災と原発事故があり、せっかく本コーナーを立ち上げたのに、しばらく更新が滞ってしまった。罪滅ぼしということで、年内にせめて簡単な記事を1本だけでも書いておきたい。別の用事で、ロシアの世論調査のデータを過去に遡ってチェックしていたら、原子力に関するロシアの世論の動向を示す記事を見付けたので、紹介してみたい。Romirというロシアの有力な調査機関が、東電の原発事故の直後にロシア全土で1,500人を対象に実施した調査の結果であり、こちらのサイトで閲覧できる。なお、実はRomirはギャラップ・インターナショナルのロシア支部であり、今回ギャラップはロシアを含む世界47ヵ国で3.4万人を対象に当該の世論調査を実施しており、Romirの調査はその一環という位置付けになる。私自身は不勉強で未確認だが、各国の調査結果を詳しく比較してみたりしたら興味深いだろう。

 さて、この調査によると、ロシアでは原子力エネルギーの利用を支持した回答者は、51.6%だった。世界平均は49%だったそうで、それを若干上回った。ただし、ロシアで東電事故の前に行われた調査に比べると、原子力の支持者は11.5%ポイント低下したそうである。

 ロシアで核事故が起きる可能性についての意見を求めたところ、起きる可能性は非常に高い:6%、高い:20%、可能性はある程度ある:45%、低い:16%、非常に低い:5%、という結果になった。

 ちなみに、原子力に関するロシアの世論動向を示すもう1つの調査結果を見付けたので、これも備忘録として記しておく。こちらはレヴァダ・センターがロシア全土で1,601人を対象に実施した調査の結果で、こちらのサイトで読むことができるが、調査時期は2010年4月と東電事故の前なので、ご注意願いたい。

 この調査で、「20年度にロシアでは石油・ガスが枯渇すると言われているが、貴方は、何が代替のエネルギー源になりうると思うか?」と尋ねたところ、原子力:43%、水力:16%、石炭:8%、その他:7%、回答困難:27%、という結果になった。

 また、「今後、原子力エネルギーをどうするべきだと思うか?」と尋ねたところ、積極的に推進する:37%、現状維持:37%、減らす:10%、完全に放棄する:4%、回答困難:12%、という結果になった。


牧之原市の英断

No.0029 2011年10月1日

 本コーナーの究極的な目標である浜岡原発の廃止に向けて、重要な動きがあった。以下はほぼ朝日新聞のコピーだが、静岡県牧之原市議会は9月26日、隣接する御前崎市にある浜岡原発について、「確実な安全・安心が将来にわたって担保されない限り、永久停止にすべきである」とする決議案を賛成多数で可決した(賛成11、反対4)。牧之原市は浜岡原発から10キロ圏にあり、中部電と安全協定を締結している。同協定を結ぶ地元4市(御前崎、掛川、菊川、牧之原)で「永久停止」を求めるのは牧之原市議会が初めて、ということである。

 まことにもって、英断と言わざるをえない。一方、原発の所在地である御前崎市は相変わらず、石原茂雄という市長を筆頭に、目先のカネのために自分たちの市のみならず地域全体を危険にさらそうとしているようだ。

 決議のテキストはこちら


シェールガスは代替エネルギーとして有望か

No.0028 2011年10月1日

 「シェールガス」という非在来型の天然ガスが米国で産出されるようになり、これが世界のエネルギーバランスに影響を与えている。実はウクライナでもシェールガスは埋蔵されていて、これを採掘して同国のエネルギー安全保障の向上につなげるべきとの立場がある。ただ、本コーナーで再三申し上げているとおり、ウクライナという国は放射能以上にロシアを脅威と考えているので、シェールガスも脱原発というよりは、ロシア産の天然ガスを代替する資源として有望視されている点に特徴がある。そうしたなか、こちらの記事が、ウクライナにおけるシェールガスの有望性を否定する議論を示しているので、抄訳して紹介する。

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 科学技術センター「プシヘヤ」のH.リャプツェフ副所長は、ウクライナにおけるシェールガスの採掘は環境面でも経済面でも問題をはらんでいると考えている。ウクライナのエネルギー独立に資さないばかりか、経済的・環境的問題を引き起こす。リャプツェフによれば、ウクライナにはシェールガスを採掘するための資金的・技術的・物理的可能性は存在しない。米国と異なり、ウクライナの企業には開発の初期段階にある鉱床を開発するための税制面での優遇措置が設けられていない。米国と異なり、ウクライナでは資源の開発権は国家が有するため、これによりライセンスの取得や追加的な社会・環境的義務など、様々な制約が生じる。ウクライナでは人口密度が高く、シェールガスは集中度が低く広範に分布しているため、採掘の効率は悪くなる。シェールガス採掘に必要な技術と人材を有しているのは一部の米国企業だけで、しかも技術ソリューションはガス層ごとに適応させる必要がある。ウクライナでは、またヨーロッパ全般では、シェールガス採掘に必要なボーリング設備が不足しており、そもそも小規模で機動的な民間ボーリング会社が多数ひしめき合い、ガスパイプラインが密に敷かれているような国は、米国だけである。

 リャプツェフによれば、ウクライナで鉱層の調査が充分に進んでいないことも、問題である。鉱層が深く(米国のそれよりも2〜3倍も深い)、それが最大で1.2万㎢にも広がっている。在来ガスと比べて、50100倍にも上る数の井戸を設けなければならず、その価格も2〜4倍に上る。30年以上にわたる投資誘致が必要であり、層ごとに異なった技術ソリューションが求められる。諸条件を勘案すると、ウクライナでシェールガスの採算がとれるのは、その原価が1,000u当たり140210ドルで、在来ガスの価格が安定している場合だけである。プロジェクト実施期間を通じ井戸を増設し続け、鉱層を水圧破砕しなければならないからだ。価格が下がってくれば、内部収益率(IRR)は急激にマイナスになる。こうしたことから、シェールガスのブームは、急激に下火になる可能性がある。現時点では、在来ガスの価格が1,000u当たり144ドルで、それで米国におけるシェールガスの採掘は競争力を有しているが、ヨーロッパにおいてはどんなに楽観的な見通しでも、ハンガリーでは在来ガスが214ドル、ポーランドでは360ドルでないと採算が取れない。

 リャプツェフによれば、米国でシェールガスの生産が急増したのには、いくつかの要因があった。米国の大きな経済ポテンシャル、大きな埋蔵量と広大な原野、鉱床探査の進展、ボーリング技術の恒常的発展、消費地から近いこと、優遇税制、ガス輸送インフラ網の発達、エネルギー資源自給政策などである。一方、ヨーロッパ諸国においては、シェールガスの生産は夢物語にすぎない。どんなに楽観的な予測でも、すべての種類の非在来型ガスのヨーロッパにおける生産を合計しても、2030年までに400億㎥を超えることはない。シェールガスの生産は、完全に米国限定の現象である。

 リャプツェフによれば、さらに深刻なのは、シェールガスを採掘した場合の環境問題である。ガス層の圧力の低下により、人口の地震を利用することさえある。水攻法のために大量の水・砂を使用しなければならないことも、環境への負荷となる。しかし、最大の環境問題は、地下水がメタンおよび溶液で汚染される危険性である。


ウクライナは再生可能エネルギーの可能性を1%しか活用していない

No.0027 2011年9月3日

 こちらの記事が、ウクライナでは再生可能エネルギーのポテンシャルがごくわずかしか活用されていないということを伝えているので、以下抄訳しておく。ただし、以前こちらで触れたとおり、ウクライナの場合は再生可能エネルギーへの期待は、脱原発ではなく、火力への(もっと言えばロシアへの)依存度軽減を主眼としている。

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 エネルギー資源の恒常的な価格上昇により、ウクライナはエネルギー問題の代替的な解決策の模索を迫られている。その際に、政権はシェールガスや炭鉱メタンガスの採取には執心していながら、風力、太陽光、水力という自然エネルギーの可能性を見過ごしている。

 「ウクライナ代替燃料・エネルギー市場参加者協会」のV.ダヴィー会長は、今日のウクライナでは再生可能電力のポテンシャルの利用率が1%以下になっていると指摘する。発電に占めるその割合は、わずか0.3%である。再生可能エネルギーがエネルギーバランス全体に占めうるポテンシャルは、約40%に上る。すなわち、再生可能エネルギーを全面的に利用すれば、電力需要の1520%を満たせる。

 「ウクライナ代替硬質バイオ燃料生産者協会」の会長で、前出の「ウクライナ代替燃料・エネルギー市場参加者協会」のエネルギー効率委員会委員長であるI.ナジェインによれば、火力発電の分野でとりわけ再生可能エネルギー発展を強調する必要がある。再生可能エネルギーの利用により、天然ガス輸入を大幅に削減できる。木および藁の廃棄物だけで、年間50億㎥のガスを代替しうる。2011年上半期にウクライナの再生可能エネルギー企業は2億7,440kWhの発電を行い、前年同期比15.7%増だった。企業は発電した電力を全量、国営企業「エネルゴルィノク」に「グリーン価格」で売却した。現在のところグリーン価格は在来発電のそれよりもずっと高い、補助金を与えられた価格である。しかし、再生可能エネルギーの開発なくして、我が国はエネルギー面で独立した国たりえないと、ナジェインは指摘した。現在、太陽光発電で生産された電力の価格は1kWh当たり約5フリヴニャ(付加価値税を除く)、風力は同1.29フリヴニャ、水力は0.89フリヴニャとなっている。一方、原発のそれは0.20フリヴニャである。

 「ウクライナ代替燃料・エネルギー市場参加者協会」の予測によれば、2011年下半期にも再生可能エネルギーの生産は少なくとも16%増大する。

 ウクライナの民間の大手エネルギー会社DTEKによれば、ウクライナにおける太陽光発電のポテンシャルは年間3,500kWhだが、現在そのポテンシャルの0.001%しか活用されていない。風力発電は年間500億〜670kWhのポテンシャルがあるが、0.50%しか活用されていない。水力は年間220億〜450kWhのポテンシャルがあるが、利用率は13%にとどまっている。


ミス原子力

No.0026 2011年8月18日

 仕事が立て込んで、この原子力のコーナーもしばらく更新できなかった。仕事がようやく一段落し、何かこのコーナー用に目ぼしい話題がないかと思い、ロシアの原子力情報サイト「Nuclear.Ru」を眺めていた。そしたら、かなり強烈なものが目に止まった。ロシアの「ミス・アトム2011」というイベントである。こちらがそのウェブサイトになっている。これは、「Nuclear.Ru」が主催し毎年開催している企画で、ロシアを中心とした旧ソ連諸国の原子力産業で働く若い女性を対象に、ネット上で美人投票をやって、その年の「ミス原子力」を決めているものらしい。

 2011年のコンテストの結果が、こちらのページに写真入りで出ている。

1位:マリーナ・キリー(ビリビノ原発勤務)

2位:ヴィクトリヤ・グセヴァ(バラコヴォ原発勤務)

同率3位:エレーナ・アリエヴァ(コラ原発勤務)

同率3位:タチヤナ・ラディカ(チェルノブイリ原発勤務)

 といった具合である。ちなみに、それぞれの名前をクリックすると、入賞者の皆さんのプロフが見られるが、1位のキリーさんは子持ち、2位のグセヴァさんも既婚ということで、厳密に言えば「ミス」ではない。

 おそらく、ロシアでも原子力産業は閉鎖的で暗いイメージがあるのだろう。だからミスコンをやって盛り上げようという、ロシアの原子力村の皆さんのせめてもの工夫だろうか。日本で同じような企画があったら、わたくし的には元TEPCOの鮫ちゃんに一票。


EUの原子力政策

No.0025 2011年7月24日

 欧州連合(EU)では、多くの政策領域で、政策が共通化されている。しかし、原子力発電を推進する、あるいは抑制するといったことに関しては、EU全体としての共通の立場があるわけではなく、構成各国の方針に委ねられている。むろん、「欧州原子力共同体(ユーラトム)」というEU傘下の国際機関は設けられているものの、その目的は共同市場の創設にあるようで、この機関が欧州規模で原発を推進するという図式があるわけではない。

 さて、ここから先は、知人から来たメールをそのまま記事にしてしまうようなものなのだが、EUは今般、放射性廃棄物および使用済み核燃料の管理に関する指令を採択した。こちらの日本語サイトに情報が掲載されている。

 趨勢としては、EU全体として脱原発を図るわけではないものの、規制がより厳しくなり、EUにおいて原発のコストが高くなる(それに伴い、ロシアからの天然ガス輸入の重要性が高まる)ということのようである。


ソビエト人の物語

No.0024 2011年7月19日

 No.0002の記事で触れたスベトラーナ・アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り ―未来の物語』という本が、このほど岩波現代文庫から再版された。東電の事故とチェルノブイリ25周年で改めてチェルノブイリが脚光を浴びたためか、中古本に高値がついていたわけだが、文庫になったことで、1,040円+税でお求めやすくなったので、この機会にぜひどうぞ。

 で、私自身も文庫を買い求め、10年振りくらいにこの本を読み返してみた。No.0002で述べたことの繰り返しになるが、やはりこの本はチェルノブイリ原発事故および被害そのものの科学的検証や事実関係について実証的にまとめたような内容ではない。事故に巻き込まれたり被害を受けたりした人々の証言に耳を傾けながら、ソ連/ベラルーシ社会の在り方や、人間の存在について問う、そんな内容である。人々の証言を載録した本である以上、そこから何を感じ取るかというのは、読み手の自由だと思う。私自身は、「これはチェルノブイリというプリズムを通して見た、ソビエト人の物語だ」ということを、改めて強く感じた。その意味では、こんなことを書くと怒られるかもしれないが、普遍的というよりも特殊なテーマを扱った本だというのが、私の受け止め方である。現在進行形の危機に直面している我々日本国民が、この本から直接何か具体的な教訓を引き出せるかといえば、そういう性格の著作ではなかろう。

 とはいえ、本書で語られるチェルノブイリ事故発生当時のソ連権力者たちの無知・無責任振りは、今日の我々にとって他人事とは思えない。とりわけ印象的なのは、ベラルーシ科学アカデミー核エネルギー研究所のV.ネステレンコ元所長の述懐である。ネステレンコ所長(当時)が再三にわたってスリュニコフ・ベラルーシ共和国第一書記に放射能の危険について警告しようとしたにもかかわらず、自らの保身や出世のためにモスクワのご機嫌をとることしか考えていなかった第一書記は、ネステレンコ所長の警告を無視し、国民を放射能に晒し続けた。ネステレンコ所長はチェルノブイリの歴史は「犯罪史」であると言い切る。

 ところで、No.0022の記事で取り上げたNHKスペシャル。私がこの番組でもう一つ問題だと感じたのは、「政府がきちんと対策をとりました」といった漠然とした形で語られていたこと。一体その「政府」というのは何なのか? 連邦のゴルバチョフ政権か、ベラルーシ・ソビエト社会主義共和国当局か、ソ連崩壊後の独立ベラルーシの擬似民主主義政府か、はたまたルカシェンコ政権か? NHKスペシャルでは、事故直後から現在に至るまで一貫してしかるべき対策が講じられてきたような論じ方だったが、実際には当地の国家権力は劇的な変容を経てきたわけであり、当然チェルノブイリ対策にもそれによる変遷があったはずだから、どの政府についての話なのかということを言ってくれないと困る。まあ、ソ連時代の連邦当局と、ベラルーシ・ソビエト社会主義共和国当局に関して言えば、ずさん極まりない対応であったことは、本書『チェルノブイリの祈り』からも明らかである。


ベラルーシ国民、原発建設についての意見は割れる

No.0023 2011年7月13日

 「ベラルーシ研究ノート」のコーナーのこちらの記事で、ベラルーシの独立シンクタンク「社会・経済政治・独立研究所(IISEPS)」がこの6月に行った全国世論調査の結果を紹介した。その時利用した記事には出ていなかったのだが、実は6月の調査では、原発建設に関する賛否も、回答者に問うていたようである。その結果がこちらのサイトに出ている。その結果をメモしておくことにしよう。

 それによれば、回答者の50.3%は、ベラルーシに原発を建設すること自体に反対と答えた。

 16.4%の回答者は、原発建設には反対でないが、ロシアによる設計と融資でそれが建設されることには反対と答えた。

 ロシアの設計および融資で原発が建設されることに賛成と答えたのは、27.1%だった。

 このように、原発建設反対派はかろうじて過半数を超えたものの、原発建設自体に反対ではない回答者も合計で43.5%おり、人類史上最悪の原発事故の被害国にしては、原発アレルギーがそれほど大きくないとも言えそうだ。


ベラルーシは放射能克服の模範国家か?

No.0022 2011年7月13日

 7月3日放送のNHKスペシャル「シリーズ原発危機 第2回 広がる放射能汚染」を観た。内容は8割方日本の放射能汚染の話だったのだが、番組の最後のところで唐突に、放射能汚染被害の経験国であるベラルーシの事例が取り上げられ、「ベラルーシは国の主導できっちりと被害対策をやりました。我が国も見習いましょう」といった調子で番組が締め括られた。

 私は、原発事故が起きてからのNHKの報道姿勢に敬服しているし、今回のNHKスペシャルも全体としては優れた番組だったと思う。しかし、最後に出てきたベラルーシの経験についての描き方は、かなり一面的ではなかったかと指摘せざるをえない。そこで今回は、7月3日のNHKスペシャルのなかのベラルーシについてのくだりを検証し、その報道内容についての私なりの評価を述べてみたい。

 番組では、ベラルーシでの取材をもとに編集した、以下のような内容のVTRが流された。

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 チェルノブイリ原発事故で汚染に見舞われたストレリチェボ村。ベラルーシ政府による手厚い放射線対策の下、およそ900人が暮らしている。事故直後、放射線量は、年間20ミリシーベルトを超えていた。このため、政府は道路を水で洗い、土壌を入れ替える政策をとってきた。それから25年、年間の線量は1.8ミリシーベルトに下がったものの、いまだ許容限度の1ミリシーベルトを超えている。

 シャランコさん一家は、夫婦と、3人の子供で暮らしている。妻のマルタさん(25)は、今も放射線への不安が消えないという。「もちろん不安はありますが、住み慣れた村を離れたくはない。村の人たちは皆、家族同然だから」と話す。

 ここでも、一番の心配は食の安全。その不安を、いかに解消しているのか? マルタさんは、近所の農家からもらった野菜と牛乳をもって、村の学校に向かった。ベラルーシ政府は、汚染地域にあるほぼすべての学校に、放射線の測定機を配置しているのだ。物理の教師に訓練を受けさせ、無料で検査を行う体制をつくった。身近にある施設で、住民自らが検査に立ち会うことで、不安を解消しようというのである。「25.72ベクレル。安全基準値の4分の1です。この牛乳は安心して飲むことができます」と、検査をした先生がマルタさんに声をかける。

 さらに、市場に出回る食品についても、検査体制の充実が図られてきた。今では、全国500を超える施設で、牛乳・肉類・野菜など、1日平均3万を超えるサンプルが調査されている。

 こうした対策が可能になった背景には、国の強いリーダーシップがあった。汚染対策を進めるため、省庁を横断した組織「国家チェルノブイリ対策委員会」を設置。その国家プログラムに充てられる資金は、国の予算の2割に上る。住民の健康管理から、地元経済の立て直しまで、様々な対策を行う権限を与えられている。

 リシューク副局長は、「地域の人々が働いて、健康に生活するという、当たり前のことを実現するだけでも、あらゆる労力と資源を集中しなければなりません」と述べる。

 長年対策を行ってきたベラルーシ政府にとっても、最大の課題は子供の健康。放射線と隣り合って生きる子供の安全を、いかに守るか。ベラルーシでは、体内にある放射線を図る特殊な装置を町や村の診療所に設置し、すべての子供の検査を定期的に行っている。マルタさんの子供の体内被曝量を図った看護師は、「体重1キロ当たり5.3ベクレル。非常に低いので大丈夫です」と、マルタさんを安心させる。こうした検査だけでなく、治療も、生涯にわたって無料で受けることができる。「子供の健康は、親の力だけで守ることはできません。有難い制度です」とマルタさん。

 しかし、事故から25年経った今でも、新たな問題が起きている。村のなかに数多く残されている汚染されたままの建物。そこから放射性物質が風で飛ばされ、再び汚染を引き起こしているのだ。政府は今、急ピッチで撤去作業に取り掛かっている。しかし、作業員の被曝線量を細かくチェックしなければならないため、思うように進まない。残る建物は1万棟、いつ撤去が終わるのか、目処は立っていない。

 国営解体企業社長は、「放射線との戦いには、忍耐と努力、そして財源が必要。25年が経っても、重い荷を背負い続けなければならない」と述べる。

正しくはストレリチェフ村。

 

のどかな村の風景。

各学校に設置された、食品の汚染を調べる装置。

 

子供の体内被曝が定期的にチェックされるという。

番組では国家委員会の副局長であるかのように紹介されていたが…

 

汚染地域の廃屋撤去作業。

 

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 以上のような取材フィルムを踏まえた上で、キャスターの岩本裕氏が次のように述べて、番組は締め括られた。「身近な場所に設置された、食品の汚染や、体の内部被曝を調べる装置。事故から25年経った今も、ベラルーシ政府は総力を挙げて住民の不安を解消しようと取り組んでいます。放射能汚染と戦うという強い意志。今の日本政府から感じられないものがいかに重要なのか、ベラルーシの取材を通して見えてきました。……原発事故から4カ月、放射能汚染との長い闘いは、まだ始まったばかりです。」

 とまあ、こんな内容だったわけである。

 なお、番組では村の名前を「ストレリチェボ」と言っていたが、これは誤りであり、正しくはストレリチェフである(ベラルーシ語ではストラリチャウ)。些事について揚げ足をとるようだが、地名が間違っている時点で、私などは「甘い取材だな」と感じてしまう。

 それから、事実関係について、もう一つ気になった点。今回の番組では、ベラルーシでは「国家チェルノブイリ対策委員会」という省庁を横断する組織がつくられ、それが一元的に汚染対策をやったからこそベラルーシでは一貫し行き届いた放射能対策が可能になったということが強調されていた。しかし、正確に言うと、現在「国家チェルノブイリ対策委員会」という組織は存在しない。現在は、「非常事態省」に付属した「チェルノブイリ原発被害対策局」というステータスになっている。特定の省の付属機関である以上、省庁横断的とは言えまい。さらに、局のこちらのページでまとめられているように、この組織はかなりの紆余曲折を経てきたところであり、私の印象ではその組織的な変遷に翻弄されて政策的にもブレが生じたことがあったのではないかと思う。それから、番組では、リシュークさんという女性が「国家チェルノブイリ対策委員会」の「副局長」として紹介されていた。「一体何の副局長なのかな?」と疑問に思って調べたところ、意外な事実が判明。この方は実は、ゴメリ州行政府のチェルノブイリ被害対策局の副局長だったのである。中央省庁の高級官僚であるかのように紹介されながら、何のことはない、地方の下級官吏だったのである。NHKさん、これって、確信犯ですか?

 まあ、細かい話は、もういいや。私が感じた、より根本的な問題について述べたい。

 まず、今回のNHKの取材は、ベラルーシの現政権の公式見解を鵜呑みにしすぎているのではないかという点。ベラルーシは、旧ソ連的な体質を色濃く留めた国であり、外向けに自国の状況を美化しようとするバイアスがある。「チェルノブイリ原発事故は多大な災厄をもたらしたが、国は事態をしっかりと掌握し、万全の対策に努めているのであり、ゆえに状況は改善に向かっている」というストーリーが強調されるのである。試しに、ロシア語で「ストレリチェフ」という地名を検索し、ヒットした記事を読んでみると(たとえばこちら)、どうもこの村は外国人のジャーナリストなどが連れて行かれる定番の見学コースになっているようである。私自身、今回のNHKスペシャルを見て、村も、シャランコ家の家の中も、不自然に綺麗だと感じた。ベラルーシのような強権国家にあって、こうしたモデル村(?)の住民が外国人の記者に、政府を批判するようなことを述べるはずはない。NHKは、ベラルーシ政府の担当官や、それが指定した村の住民から話を聞くだけでなく、野党や独立系メディア、またベラルーシで活動している外国のNGOなど、様々なアクターから意見を聞いて、ベラルーシの公式見解を批判的に検証する努力をすべきではなかったか。現に、ベラルーシ当局は常に「国家財政の2割をチェルノブイリ対策に費やしている」と主張するものの、No.0008の記事で見たように、まったく配慮が行き届いていないと批判する向きもあるのだ。

 もう一つ、重大な問題だと思う点。確かに、ベラルーシというのは外国人の目から見ると、とても整然とした国のように見える。しかし、ベラルーシのような強権国家では、与野党対決とかあるはずはないし、省庁間の綱引きとか中央・地方の緊張関係とかも表面化しないのが当たり前だ。政府を批判するマスコミとか、国家と対峙する市民社会も弱体である。したがって、ベラルーシ当局がチェルノブイリ汚染対策を立て、それを実施すれば、一見すると国の主導できっちりと対策をやっている素晴らしい国だ、と思ってしまいがちである。しかし、では国の対策に欠陥があったりした場合に、マスコミがそれを批判したり、市民が不満の声を上げたりして、それが政策に反映されることがあるだろうか? 私はそう思わない。ベラルーシでは、ひたすら政府お仕着せのチェルノブイリ対策(むろん、その多くは実際に有益なものであろうが)が、粛々と続けられているにすぎない。しかも、今日では、国民の意向を置き去りにしたまま、為政者の独断で原発を建てようとしているのである。

 こうした、民主主義も、市民社会も存在しない、それゆえに一見すると国の主導で物事が整然と進んでいるかのように見えるベラルーシという国から、我々が学べることは、限定的である。放射能に関する科学的なこととか、住民ケアのノウハウのような技術的なことなら、その余地もあろう。しかし、今回のNHKスペシャルで強調されたような「ベラルーシに倣い、国による強いリーダーシップを」といった論点は、的外れである。おそらく、賢明なNHKの番組制作者は、そんなことは百も承知だったのではないか。日本政府が強いリーダーシップを発揮すべきという主張を強く打ち出そうとするあまり、ベラルーシの国家体制の問題には片目をつむり、やや強引にベラルーシを放射能汚染対策の模範国として持ち上げてしまったのではないか。だが、主張が正しければ、どんな強弁も許されるというものではあるまい。せっかく、番組全体としては重要なメッセージを発信しているのに、それを支える部分に手抜かりや嘘があったら(手抜かりや嘘は電力会社だけで充分だ)、メッセージそのものの説得力が薄れてしまう。


ウクライナの一風変わった原発抑制論

No.0021 2011年6月29日

 今、ウクライナの石炭産業について調べている。その過程で、ちょっと面白い資料に出くわした。DTEKという、R.アフメトフ氏のSCM財閥傘下のエネルギー会社(石炭および電力業に従事)があり、その会社が2009年6月に作成したプレゼンテーション資料がそれでありこちらからダウンロードできる。このなかでDTEKは、ウクライナの発電における原発のシェアを低下させることを提唱しているのだが、その論理が一種独特なのである。

 ウクライナでは、発電量全体の半分近くを、原子力が賄っている(下図では50%とされている)。DTEKは、これを3%分減らし、その分火力発電を増やすべきと主張する。容量1ギガワットの原子炉1機を停止するだけで、この時点で250万tあったウクライナにおける石炭の余剰在庫を半減できる、というのである。

 DTEKによれば、ウクライナにおける原発の電力卸売価格は0.15グリブナ/1kWhで、火力発電所のそれは0.33グリブナである(No.0014の数字と少々違うようだが、悪しからず)。したがって、火力の割合を増やすと、電力料金は上昇する。しかし、現在石炭の過剰在庫が400万tもあり、炭鉱の閉鎖および炭鉱労働者の解雇という事態の瀬戸際にある。ウクライナにとっては、同じカネを払わなければならないのなら、失業手当を払ったり、ロシアに核燃料代金を払ったりするよりも、自国の労働者に石炭を掘ってもらって、彼らに賃金を支払う方が、はるかに有意義である。だから、せめて一部だけでも、原子力から火力にシフトすべきだ。DTEKはこのように主張しているわけである。

 むろん、リーマン・ショック後の経済危機下で、DTEK自身が膨大な石炭在庫を抱えていたからこそ、このような主張を打ち出したのであろう。それにしても、エネルギー事情というのは、国それぞれだなと、改めて思わずにはいられない。

 

 


ベラルーシには新エネルギーの可能性がある

No.0020 2011年6月26日

 こちらのサイトで、ベラルーシにける代替エネルギー開発の可能性、それに向けた動きが紹介されている。ただし、ここに出てくる「再生可能エネルギー協会」のV.ニスチュークという人は、少なくとも表向きは脱原発を唱えているわけではない。むしろ、現政権がすでに原発建設の決定を下したことにかんがみ、それを織り込んだうえで、さらにそれを補完するものとして新エネルギーを提唱しているのが特徴的である。このあたり、強権国家ゆえに、やむをえないのかもしれない。記事の要旨は以下のとおり。

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 ベラルーシ政府は、経済危機にもかかわらず、原発の建設を続行しようとしている。しかし、専門家は、ベラルーシには代替エネルギー開発の可能性が充分にあると指摘している。

 「再生可能エネルギー協会」のヴラジーミル・ニスチューク専務理事によれば、適切な投資さえ行えば、ベラルーシは発電に占める再生可能エネルギーの比率を、2020年までに最大20%に高めることが可能だという。

 ニスチュークによれば、現時点のベラルーシで最も有望なのは、風力である。ある研究によれば、ベラルーシには風力発電機を設置できる地点が、(しばしば挙げられる1,800ではなく)30万箇所に上るという。ベラルーシ初の商業用風力発電機は、本年ミンスク州ジェルジンスク地区で建設が始まる予定。ドイツのEnertrag社が、2.5億ユーロを投資する。第1段階は計80MWで、2012年に稼働予定、第2段階も同じく計80MWで、2014年稼働予定である。Vestas社の最新発電機(1機当たり3MW)が設置される。ちなみに、ベラルーシにはすでに実験用の風力発電機20機が設置されており、うち14が稼働している。設置場所がとくに熟慮されたわけではないにもかかわらず、それらは良好な数字を示している。

 ニスチュークによると、ベラルーシでは水力発電も有望である。一方、太陽光発電には高価な設備を買わなければならないという問題があるが、実はベラルーシでも太陽光関連のユニットの生産が始まっており、それに向け動き出している。地熱発電の開発も計画されており、国産の熱ポンプも登場した。さらに、ベラルーシではバイオマス・エネルギーの開発も活発化しつつあり、国内には1,000件にも上る農業企業があることから、それらの廃棄物を燃料として活用することが可能である。

 日本で原発事故が起きてから、ドイツ、スイス、イタリアなどの一連の欧州諸国が核エネルギーと決別したが、ベラルーシの指導部は相変わらず明確に原子力寄りの姿勢をとっている。ニスチュークは、原発を建設するという決定が下された以上、それに闇雲に反対してはならず、我々に求められるのは他のエネルギー源からもエネルギーのポテンシャルを高めることができるという事実を証明することだ、と語る。

 しかし、ニスチュークによると、ベラルーシで代替エネルギーを開発するためには、政治的な決定が必要である。現在問題となっているのは、どこにエネルギー源を求めるかではなく、国家のエネルギー安全保障である。ロシアがベラルーシをバイパスしてノルドストリームやサウスストリームで天然ガスを欧州に輸出しようとしており、ベラルーシはトランジット国としての価値をなくし、影響力を失う危険性がある。そうした状況では、エネルギー危機が起こる危険性が排除できず、それは金融危機よりも恐ろしい。どんな大プロジェクトであっても、1つのプロジェクトですべての問題は解決できない。原発を建設する過程では、資金的、政治的、経済的など多くの問題が発生することになろう。


浜岡原発のどこが危険か

No.0019 2011年6月25日

 6月23日放送のテレビ朝日「モーニングバード!」で、浜岡原発の危険性に関するレポートをやっていた。前身番組の「スーパーモーニング」の時から財政や特殊法人の無駄遣い追及する調査報道で異彩を放っていた玉川徹氏による「そもそも総研」というコーナーでのことである。備忘録として、今回の報道内容をまとめておく。

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 東電原発では、全電源を喪失したことが、大事故につながった。それを受け、浜岡原発では、各建屋の屋上に、9台の災害対策用発電機を設置。さらに、予備の3台を高台に設置した。これにより、すべての電源を補えるわけではないが、原子炉と燃料プールに注水するための機能は維持できる、という。これで時間を稼ぎ、燃料の損傷を防いで、その間に大型の電源を普及させるという狙い。さらには、12台の可搬式動力ポンプを設置。緊急事態に、注水だけは続けられるという。

屋上の発電機

リアカー搭載かよ。こんな昔の消防団みたいな機械で大丈夫か?

 菅総理の要請を受け、浜岡4号機は運転停止した。しかし、むしろ懸念されるのは、1,200体の使用済み核燃料が置かれたままの、2号機の燃料プールだ。1・2号機の燃料プールは、600ガルの揺れまでしか耐えられず、1,000ガルの揺れに耐えられるようにするための耐震補強工事に費用がかかりすぎるとして、廃炉が決まった経緯がある。つまり、耐震性が低いのだ。中部電力では、なるべく早く4・5号機のプールに移動することを計画していると言うが、それには「あと1〜2年かかる」としている。「その間に大地震が来たらどうなるのか?」という記者の問いかけに対し、「原子炉を停止してすでに7年ほどが経っているので、冷却機能を全部止めても、55℃くらいまでしか温度が上がらないことが分かっており、水が蒸発して燃料が露出することはないはず」と説明。3・4・5号機は1,000ガルの揺れに耐えられるよう設計されている。ただし、東日本大震災では、宮城県栗原市で最大2,933ガルの揺れを記録しており、本当に緊急事態に陥ることはないのか、懸念される。

 もう一つ、懸念されるのは、沖合600mにある取水塔。浜岡原発では、取水塔から取り込んだ海水をポンプで送ることで、原子炉・燃料プールの除熱・冷却を行っている。この取水塔は、むき出しの状態で、津波に耐えられるのか? これについて、中部電力広報は、「取水塔が津波で壊れることはないと聞いている。(仮に壊れたら?)仮定の話には答えられない。ただ、もしそうなってしまえば、ここの取水槽のエリアで海水がとれなくなるかもしれない」と回答。しかし、その場合にも、非常用発電機と可搬式動力ポンプで海水が注入できるので、炉心損傷は避けられるというのが中部電力の主張。要するに、中部電力は様々な対策を講じたというが、それらはすべて、最終的には非常用発電機と可搬式動力ポンプに行き着くわけである。

 元GE技術者・菊地洋一氏コメント。まず屋上に設けた発電機が正常に働く保証はない。どんな巨大地震が来てもそこだけは揺れない免震構造になっているとかであれば別だが、そんな対策はしていないはずだ。中電は3・4・5号機は1,000ガルまで耐えられるとしているが、1,000ガルを超える可能性もある。浜岡原発に関しては以前から様々な問題が指摘されていて、たとえば原子炉シュラウド(原子炉を囲う円筒状のステンレス製機器)にヒビがいっぱい入っている。その検査をやってからでもすでに8年くらい経っている。配管と原子炉が繋がるノズルの検査など、10年に1回くらいしかやっていなかったのだが、ヒビがいっぱい入っていたので、5年に1回になった。いずれにしても、5年に1回しか検査をしていないわけだから、その間にヒビが入って、大きな地震が来たら終わりだ。

 東洋大学社会学科の渡辺満久教授のコメント。活断層専門家が一番心配していることは、浜岡の真下に非常に大きな活断層が通過していて、それが動いた場合には、敷地そのものが相当隆起していくだろう、かつ東側が大きく傾く可能性があるのではないかという点。原発の敷地が斜めになるということであり、原発は斜めになるように設計はされていないであろう。建造物については専門家に訊かないと分からないが、活断層の分野で常識的に知られているのは、大きく傾いてしまうところでは、地震の被害が物凄く大きくなるということ。隆起してくる場所に立っている建物は軒並み倒れる。揺れと一緒に土地が動いてしまうことは、被害をきわめて大きくする原因になる。そういった場所に浜岡が立地しているということが明らかになってきて、その点を一番心配している。

 ちなみに、浜岡原発の東側2kmの地点で過去に2.5mの隆起が過去にあったことが知られている。しかし、これに関し中電は、「過去に敷地において隆起といえるものはありましたが、建物や配管が壊れてしまうような『一部分が異常に盛り上がるような隆起』はありませんし、今後も発生しないと考えています」という見解を示している。

 京都大学原子炉実験所の小出裕章助教のコメント。事故というのは、予測できないものである。こういうシナリオで事故が起きるということがあらかじめ分かっていたら、原因に一つ一つ対処すればいいだけであって、事故など起きない。しかし、東電の事故でも、まったく事前のシナリオとは違う形で起きてしまったのだ。それを受けて、中電がまたそのシナリオに沿うように事故を想定しているのだろうが、次の事故は違うシナリオで起きるのであり、それが事故というものなのだ。実際にそれが起きると、電力会社は「想定外だった」という言い訳を常にするわけであるが、これからもそうした事態は起きうるし、浜岡でもその可能性はあると考えなければならない。機械というものは、完全に事故を防ぐということは不可能だが、問題は原発の場合にはいったん事故を起こしたら取り返しのつかない被害を生じさせるということで、そういう機械は元々使うべきではないというのが私の立場だ。

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 以上が6月23日のモーニングバードの報道内容であった。京大の小出先生というのは、原発の専門家でありながらそれに反対しており、ゆえに昇進できないという人だ。その先生が、No.0004の記事で私が主張したのと同じことを言っておられるのは、心強い。

 話を蒸し返すようで恐縮であるが、先日の清水エスパルスVSジュビロ磐田の試合で、ジュビロの応援席で、「ゴトビへ 核兵器作るのやめろ」という横断幕が掲げられる事件があった。私見によれば、今日静岡県民を核で脅かしているのは、イランではなく、中部電力である。蛇足ながら、その中部電力は、名古屋グランパスのスポンサーである。突飛なことを言うようだが、先のエジプト革命では、サッカーのサポーターがその組織力・動員力・戦闘力(?)で、枢要な役割を果たしたことが知られている。とかく県民性がおとなしいと言われる静岡県において、浜岡原発を廃止に追い込むためには、エスパルスとジュビロのサポーターが立ち上がり、共闘するしかないのではないか。(むろん、サッカーの現場にそうした主義主張を持ち込む必要はない。念のため。)


ウクライナの新エネ促進は火力依存低減が目的

No.0018 2011年6月23日

 こちらのニュースによると、ウクライナは発電に占める新エネルギーの比率を30%にまで高めようとしている(現時点ではゼロに近い)。しかし、その目的は脱原発というよりも、あくまでも火力発電への依存を軽減するという点にあるようだ。ロシアから輸入する化石燃料への依存度が大きすぎることが、ウクライナのエネルギー安全保障の最大の問題であるという意識が、その背景にあると言えよう。記事の要旨は以下のとおり。

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 ウクライナは、今後数年で高価な輸入燃料への依存度を低めるという目標を掲げており、発電に占める新エネルギーの比率を30%まで高めたい意向である。これは、エネルギー効率・省エネ庁のM.パシケヴィチ長官が明らかにした。

 パシケヴィチ長官によれば、これから2〜3ヵ月間で同庁は、再生可能エネルギー分野の「ロードマップ」策定に向けた作業を完了する。そのロードマップは、近いうちに政府に提出して検討される。それが承認されれば、投資家にとってのリスクはきわめて低くなる。イタリアのC&C Energy Srl社は、ウクライナ政府との交渉の場で、ウクライナに200MWの風力発電所を建設したい旨表明した。

 これまで、ウクライナの再生可能エネルギー分野では、R.アフメトフ氏傘下の電力持ち株会社DTEKが、3億ユーロを投資して2011年にザポリージャ州で200MWの風力発電所建設に着手する旨発表していた。

 もうひとつの再生エネルギー源である太陽光の分野では、オーストリアのActiv Solar社がクリミア自治共和国にある太陽光発電所群の能力を2012年までに、7.5MWから300MWに増強する計画である。同社では、ザポリージャの半導体工場で太陽光パネルの生産に用いられる半結晶シリコンを生産している。クリミア西岸のサキ地区にある同社の最初の発電所は2010年に稼働し、7.5MWから、本年中に60MWに増強される。同社はクリミアのシンフェロポリ地区さらに2つの太陽光発電所を建設する。

 現時点では、新エネルギーがウクライナの発電量に占める比率は、微々たるものである。ボイコ・エネルギー・石炭産業相は、ウクライナは新エネルギーの開発に70億グリブナを投資すると発言している(700億円くらい)。


ロシアはIAEA閣僚級会合の結果に満足

No.0017 2011年6月22日

 今般ウィーンで国際原子力機関(IAEA)の閣僚級会合があり、世界中の原発を対象に安全性評価を実施する必要があるという総意が得られた。こちらの記事が、それを受けたロシアの反応を伝えている。これによれば、ロシア原子力公社「ロスアトム」のキリエンコ総裁は、ロシアの大部分の提案が今回のIAEAの宣言に盛り込まれた、ロシアの提案は完全な支持を得たとして、満足の意を表している。

 閣僚級会合は、IAEAの調整機能を強化し、国際的な法的枠組みと責任を強化し、原子力発電を開始した国々のインフラに対する特別な要求を形成することの必要性、さらには情報提供の公開性と透明性を図る必要性につき、合意した。会合参加者がロシアの提案に賛同したことこそ、ウィーンにおける会合の最大の成果であると、キリエンコ総裁は指摘した。

 キリエンコはさらに、日本における悲劇にもかかわらず、最近開催されたあらゆる会合において、今後も原子力エネルギーを発展させる必要があることが確認されていると指摘。原子力を拒否するのを言明したのは、ドイツやイタリアといったこれまでも原子力の開発を計画していなかった国であり、トルコ、韓国、チェコ、フランス、米国など、その他のすべての国々は自らの立場を変えておらず、原発建設計画も変更していないと、キリエンコは述べた。


キリエンコ講演、原子力の3つの課題を挙げる

No.0016 2011年6月11日

 6月8日、国際フォーラム「アトムエクスポ2011」の席で、ロシア原子力公社「ロスアトム」のキリエンコ総裁が講演を行った。その発言要旨がこちらのサイトに出ている。東電の事故を受け、今後ロシアおよび世界が原子力の安全を確保するためにどのような道に進むべきかを述べたものであり、注目される。記事が伝えるキリエンコの発言要旨を抄訳すると、以下のとおり。

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 核分野は、安全の確保に向け確固たる措置をとる必要がある。核分野においては現在に至るまで確率論的なアプローチがとられているが、日本の原発事故は、我々は人間の安全確保という観点からこのようなアプローチをとってはならないということを物語っている。決定論的なアプローチへの移行により、いかなる自然現象が組み合わさろうとも、人間の生命およ び安全がまったく脅かされないようにすることができる。これに関連し我々は、3段階の行動という構想を策定した。

 第1段階は、稼働・建設中のすべての原発の信頼性・安全性を点検することである。ここできわめて重要なのは、その方法と結果の評価につき、公開性を確保することである。その目的 は、点検の結果を作成し、その作業が一国の専門家だけでなく、全世界の業界全体の見解とも合致した形で実施されることだ。専門家の国際的なグループを形成し、彼らが他国の原発の安全性を検査できるようにする構想を、我々は支持する。

 第2段階は、国際的な法的枠組みを修正することであり、国際原子力機関(IAEA)がその調整作業を担うべきである。 我々は、日本の原発事故を受け、今後は安全基準を国際法上の義務事項とし、すべての国に順守を義務付けるべきだと考えている。メドヴェージェフ大統領は、原子力事故を制御するうえでの国家の役割について提案している。日本での経験が示しているのは、電力会社に事故への対応を任せきりにしては駄目だということである。最も初期の段階で国家が介入すべきであり、さもなくば被害が数倍に拡大する。

 第3段階は、新世代のテクノロジーへの移行を加速することである。とりわけ、核燃料サイクルと安全性の確保を結び付けたいわゆる「自然安全」の技術への移行が必要である。

 これら3つの課題は、一つ一つの国家の課題ではなく、グローバルな性格を帯びている。

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 以上がキリエンコ講演の要旨である。なお、第3の課題のなかに出てくる「自然安全」とは、ロシアが開発を進めているBRESTという鉛冷却高速炉でキーとなっている概念であり、潜在的に事故を起こす可能性のある技術的ソリューションを終始一貫して採用せず、自然法則と使用した素材の特性により安全性を確保し、これにより高い安全性と経済性を得るというアプローチらしい(以上、ロシア語版ウィキペディアの「BREST」という項目より。科学オンチにつき自信はないので、悪しからず)。

 原子力を戦略的産業と位置付けるロシアが、日本での事故とその後の世界的な反原発潮流に危機感を抱いていることは間違いない。それゆえに今回キリエンコが、安全性の向上に向けた世界的な取り組みを提唱し、ロシアがそれに向けイニシアティブを発揮するとの姿勢を示したのであろう。「確率論的なアプローチから決定論的なアプローチへ」というのは面白い考え方であり、さすがロシア人は物事を高邁に表現するのが上手いと感じる。しかし、読んでいただければ分かるとおり、安全性の確保に向けて特別に新しい具体論を述べているわけではない。事故への対処には国が前面に出て当たるべきという主張と、国際的な相互監視体制を強化しようということを言っている程度だ。その程度のことで、「決定論的アプローチ」と言えるのか、甚だ疑問である。


ニジェゴロド原発への反対運動

No.0015 2011年6月9日

 6月7日放送のNHK-BS「ワールド・ウェーブ・モーニング」という番組で、ロシアの原発の問題を取り上げていた。沿ヴォルガ地域のニジェゴロド州で建設予定のニジェゴロド(モナコヴォ)原発が中心的なテーマだった。この報道の要旨と、関連情報をまとめておく。それにしても、原発事故が起きてからの、NHKの貢献振りには、目を見張るものがある。

 NHK-BSの報道内容は、以下のようなものだった。すなわち、原発を数少ない国際競争力のある戦略産業と位置付けるロシアでは、今後国内で10基の原発を新規建設する予定であるだけでなく、積極的に輸出も図っている。しかし、日本の原発事故後に行った世論調査では、原発推進の見直しを求める人が大幅に増えて、40%に達した。そうしたなか、ニジェゴロド原発の建設計画については、反対運動がこれまでになく高まっている。原発建設地からほど近いムーロム市の市会議員ヴァシーリー・ヴァフリャエフは、建設地周辺は、雨水や地下水で浸食されやすい地形で、140箇所で地面の陥没が起きており、原発建設は危険だと考えている。ヴァフリャエフは、「事前にどこで陥没が起きるのか予測できない」と指摘。原発を建設するロスアトムは予定地に問題はないと主張しているものの、ヴァフリャエフ市議らは「事故が起きれば我々周辺住民が被害を受ける」として、反対運動を組織、市を挙げて反対運動に乗り出した。これまでに7万人の反対署名を集めて政府に提出した。日本の原発事故を受け、原発の安全性を問う討論会や集会も開き、反対の動きを強めている。ヴァフリャエフ市議いわく、「ロスアトムはこれまで日本の例を挙げ、日本では大都市の近郊に原発を建て、それにより他の生産者に対する競争力を獲得していると我々に説明してきた。しかし、現実には、日本では深刻な事態となっている」。

 以上がNHK-BSのレポートの内容だった。以下は私の補足である。ニジェゴロド(モナコヴォ)原発は、正確にはニジェゴロド州ナヴァシノ地区のモナコヴォ村近くに建設される。本件は2020年までのロシア連邦電源立地計画にすでに盛り込まれている。建設地としては当初2箇所が検討されていたが、2009年8月にナヴァシノ地区に決まった。すでにロシアの管理当局からロシア型加圧水型原子炉(VVER1200)2基建設の認可を得ている。総出力は3,450MWで、最終的に4基に拡大されれば4,600MWになる。2009年に地元で公聴会を実施し、同年に設計作業を完了。2011年建設開始、2016年1号機稼働、2018年2号機稼働を予定している。

 さて、NHKのレポートが伝えるように、ムーロム市というところで反対運動が起きているわけだが、(NHKでは触れていなかったが)私が個人的に注目したのは、ムーロム市がニジェゴロド州ではなく、お隣のウラジーミル州の所属であるという事実だ。ムーロム市はウラジーミル州所属ながら、対ニジェゴロド州の州境付近に位置し、原発予定地からはわずか23kmの距離にある。したがって本件は、青森県大間町の原発建設に、北海道函館市の市民が反対するのと同じような構図をもっているわけである。実はムーロム市というのは、ロシアのなかでもかなり古い歴史をもった古都であるということだ。その発祥年は西暦862年とされている。市民運動が全般に盛んでないロシアにあって、ムーロム市で原発反対運動が盛り上がっている背景には、古都の市民ゆえの郷土愛、意識の高さなどがあるのかもしれない。

 ニジェゴロド原発建設地周辺で見付かった穴ぼこの一つ。

 左奥がムーロム市の反対運動のリーダー、ヴァフリャエフ市議。

 原発建設に反対する市民集会。

 

 


ウクライナが原発をやめられない理由

No.0014 2011年6月2日

 No.0005の記事でお伝えしたとおり、チェルノブイリを停止した今も、ウクライナはかなり原発依存度の高い国のままである。現地ウニアン通信のこちらの記事が、ウクライナ原発分野の内情に迫っているので、その要旨を以下のとおりまとめておく。

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 ウクライナでは地震・津波の脅威がないという見方が一般的だが、それに異を唱える、それも極論を唱える向きもある。たとえば、ドニプロペトロウシク国立鉱山大学の専門家グループは、ザポリージャ原発の近くで津波が発生することは、ありえないことではないと指摘する。震度2.5の地震が起きた程度で、ドニエプル水力発電所のダムは決壊する(注:ザポリージャ原発は海ではなく、ドニエプル川沿いに立地している)。その場合、高さ10メートルの津波が、ドニエプル下流のすべてを洗い流し、ザポリージャ原発も壊滅する。もっとも、政権当局はこの説につき、住民を脅かすことにより「怪しげな調査」のための財政支出を取り付けようとする試みと評しているが。

 ただ、ウクライナ科学アカデミー測地学研究所のA.ケンゼラ副所長によれば、ザポリージャ原発につき憂慮されるのは、それがウクライナの原発としては唯一、設計の際に地震のリスクが一切考慮されなかったという点であるという。ザポリージャ原発が建設された1970年代当時、同地は地震のリスクがない土地だと考えられていた。しかし、現在は、大地震の可能性こそわずかであるものの、ザポリージャ原発もウクライナの他の原発と同様、地震のリスクから自由ではないと考えられている。こうしたことからケンゼラ副所長は、ウクライナのすべての原発に地震観測システムを導入し、地震のリスクを評価できるようにすることを提唱する。

 チェルノブイリ原発を廃炉にする問題も忘れてはならない。専門家によれば、日本の地震との関連でウクライナが心配しなければならないことがあるとすれば、それはチェルノブイリ原発4号炉の「石棺」が崩壊してしまう危険であるという。石棺は、震度4〜5の地震でも持ち堪えられないかもしれない。石棺を覆う新たな建造物の建設は数年間も宙に浮いており、いつ完成するのか見当も付かない。

 ウクライナの各種発電のなかで、原発の発電コストが最も安い。原発のオペレーターを務める「エネルゴアトム」の販売価格は、2010年半ばの時点で1kWh当たり0.14グリブナであった(注:2010年の年平均為替レートは1ドル=7.93グリブナ。0.14グリブナというのは、1.56円くらいに相当。No.0007の記事と比較あれ)。火力発電の価格は1kWh当たり約0.50グリブナである。国営企業「エネルゴルィノク」は原子力と火力の価格をミックスしており、また州ごとの電力販売会社が自らの取り分を上乗せするので、最終的な需要家であるウクライナ企業が電力を購入する価格は1kWh当たり5060グリブナ以上となる。というわけで、事故の可能性を捨象すれば、原子力は火力よりもはるかに魅力的となる。 

 ウクライナでの現状ゆえに、近い将来に原子力を放棄することは、論外となっている。2010年にはリヴネ原発の1号炉(1980年完成)の、2011年には同2号炉(1982年完成)の廃炉作業の開始が予定されていた。2012年には南ウクライナ原発の1号炉(1983年稼働開始)も廃炉に入るはずである。しかし、現在までのところ、これらの炉の廃止に向けた準備作業は、着手すらされていない。

 ドイツのように、原子炉稼働の延長措置を見合わせ、いかに損失が生じようとも、段階的に操業を停止すべきだとする議論もある。しかし、チェルノブイリ原発の元所長で、現在「国家安全保障・防衛評議会」の副書記を務めるS.パラシン氏は、次のように指摘する。「現状ではウクライナの古い原子炉は稼働を続けるべきだ。運転を停止すれば、巨額の損失になる。すでに2機の原子炉の稼働が延長され、その稼働状況は他の原子炉と比べても悪くない。もっとも、これは現時点での短期的な問題だ。将来的なことに関して言えば、ウクライナで最も古い原子炉であるリヴネ1号炉の稼働が延長された20年間の間に、ウクライナの原発依存度軽減を含め、様々な解決策を講じうる」。

 一方、「核エネルギー発展基金」のA.シュヴェドフ専務理事は、ウクライナの原子炉を廃炉にするといっても、今日ではそのためのテクノロジーが確立されていないということを指摘する。

 かつてエネルギー安全保障国際問題に関する大統領の全権代表を務めたB.ソコロフスキーは、稼働を延長した原子力は、当然のことながら、安全に関するより高い注意を要すると述べる。同氏によれば、1年半前にウクライナ科学アカデミーおよびフランス、チェコの代表が集まり、様々な国の原発事故発生件数を分析したところ、最も安全だったのは英国のそれであり、それはひとえに英国が原子炉の稼働年数を当初の設計寿命を超えて延長したことがないからだという。それでもソコロフスキーは、ウクライナにとって現時点で最良なのは原子炉の稼働を延長することであると強調する。それは単に、寿命を終えた炉を廃止する費用がないからであり、ウクライナが炉の完全廃止を実行できる確信をもてない以上、それを延期するのがベターとのことである。

 エネルゴアトム側が再三表明しているように、同社は長年にわたり「原子炉廃止基金」に資金を積み立ててきたが、実際には同基金は机上の存在で独自の会計などをもっているわけではなく、積立金は国家歳入にそのまま流入していた。したがって、現時点でウクライナに残された唯一の選択肢は、原発稼働の延長のための資金と技術的方式を模索することであり、それは実質的にエネルゴアトムがずっと取り組んできたことである。現在のところ解決策はないが、その代わり欧州の金融機関と原子力専門家からは具体的な提案が寄せられている。その際に重要なポイントは、ウクライナは廃炉または稼働延長予定の原子炉だけでなく、既存の15炉すべてについての近代化を提案されていることである。EBRDをはじめとする欧州の機関は、まさにそのようなプロジェクトに対し資金を提供しようとしている。彼らにとっては、ウクライナが稼働を延長しようがしまいがどうでもよく、肝心なのはウクライナの原子力の安全性が確保されることである。それはウクライナ国家核管理局の立場とも完全に一致している。

 ウクライナ国家核管理局のYe.ミコライチューク局長によれば、同局はエネルゴアトムに対し、ウクライナの原発で想定されるリスクに対する体系的な分析を行うよう、勧告する予定である。そうした措置は、日本の原発事故を受け、すべての欧州諸国で予定されているものである。近いうちに、ウクライナの各原発で行うことになるストレステストの一覧表が作成され、その結果にもとづいて具体的な勧告が出される。ウクライナ国家核管理局によれば、一部の原子炉については、閉鎖を勧告することになる可能性もあるが、おそらくは安全性の欠如に関する指摘にとどまるだろうとのことである。同局では、「ウクライナの方針は、常に欧州の規則に則っている」と述べている。

 近代化措置の実施により、ウクライナの原発は収益を挙げる時間を獲得でき、それにより欧州の安全基準を満たしながら自らの廃炉のための資金を稼ぐことができる。むろん、それには、エネルゴアトムが原子炉廃止基金に積み立てた資金が、利用可能になったらという条件が付くが。

 日本の原発事故のウクライナ原子力政策への影響ということに関して言えば、建設途上の原子炉の問題が挙げられる。ソ連時代に建設が開始されたフメリニツィキー原発の3号炉と4号炉であり、それぞれ完成度75%と30%の状態で止まっている。2010年にウクライナとロシアの政府間で枠組協定が結ばれ、両原子炉を完成させることがうたわれた。エネルゴアトムでは完成までに要する費用を330億グリブナ(約3,666億円)としている。本年中に総合国家評価が下される。稼働予定は、20162017年である。しかし、2011年3月17日に前出のミコライチュークは、日本の原発事故の経験に照らしても、ウクライナはフメリニツィキー原発の原子炉建設に当たって、古い構造物は放棄すべきであると発言した。この発言からして、ウクライナは新しい原子炉の建設を全面的に放棄することになるかもしれない。

 前出のソコロフスキーも、ミコライチュークの立場を支持しており、20年以上前に建設された建造物を基盤として原子炉の建設を継続することは許容できないとしている。同氏は、新しい原子炉を建設すること自体には賛成しつつ、フメリニツィキーで設置されようとしているのはすでに終わろうとしている第2世代のものであり、現在まだ実用化こそしていないものの第3世代のAP1000が存在し、そちらの方が値段は高いもののウクライナの既存原子炉やロシアの製品よりもはるかに安全だと指摘する。

 3月25日の記者会見で前出のミコライチュークは、ウクライナで第2世代原発を建設することに対し国家核管理局は厳しい立場をとっていることを明らかにし、「我々には陳腐化した原子炉の建設にストップをかけるすべての法的権限がある」と発言した。局長によれば、日本の原発事故のあと、世界では誰も古いタイプの原子炉を建てようとはしていない。我々が今日ライセンスを出すのは第3世代の原子炉のみであり、その技術を有するのはロシア、米国、フランスである。フメリニツィキーで第3世代を建設するとすれば、そのことはすなわち、既存の古い構造物はすべて放棄することを意味する、とのことだ。


劣化ウランはトムスクへ

No.0013 2011年5月21日

 前の記事の続き。NHK-BS「世界のドキュメンタリー」の「シリーズ 放射性廃棄物はどこへ」で放送された「終わらない悪夢」の後編も、完全にロシア絡みの話だった。この後編のストーリーは、次のようなものである。仏アレヴァ社は、使用済み核燃料を国内の施設で再処理し、その結果生まれるのが95%のウラン、4%のガラス固化体、1%のプルトニウムである。プルトニウムはウランと混ぜてMOX燃料として使用。ガラス固化体は廃棄物として安全な場所に保管される。それでは、95%のウランがどこに行くかというと、ロシアのシベリア・トムスクに運ばれる。その量は、1990年以降、毎年120トンに及んでいる。そして、トムスクの秘密都市セヴェルスク(トムスク7)で、ウランの再濃縮が行われる(1990年代にロシアの原子力産業が深刻な資金難に陥り、日銭を稼ぐために始めたビジネスのようだ)。しかしながら、ロシアからフランスに送り返されるのは、10%に相当する濃縮ウランだけであり、残り90%の劣化ウランはトムスクにそのまま残される、というのだ。トムスクの担当官も、仏アレヴァ社も、その事実を認めた。

 番組のなかで、トムスク州放射線安全管理部の幹部は、「リスクがあるとしたら飛行機の衝突くらい」と、涼しい顔で語っていた。しかし、そうではあるまい。サンクトペテルブルグ〜モスクワ間の鉄道が爆弾テロの標的になったこともあるわけだから。

 それにしても、我が国は、こんなフランスのハゲタカのような連中に大枚をはたいて、汚染水を処理してもらおうというのだろうか。1トン当たり、2億円って……。 

 フランスのアレヴァ社が再処理した使用済み核燃料は、海路3,500kmを経てロシアのサンクトペテルブルグへ、そこから鉄道3,200kmを経てシベリアのトムスクまで運ばれる。

 これがシベリアのセヴェルスク(トムスク7)。現在も部外者が立ち入ることはできない。

 Googleマップで見ると、セヴェルスクの一角に大量にコンテナが置かれている様子が。このコンテナにウランを保管。10メートルものコンテナなので、宇宙からもその映像が捉えられる。

 トムスク州放射線安全管理部の幹部。フランスから送られてきたウランをセヴェルスクで濃縮し、濃縮ウランはフランスに送り返されるが、残った9割の劣化ウランはトムスクにそのまま残されるということを、あっさりと認める。

 この専門家は、「フランスの原子力政策を決めてきたのはエリート技術官僚。国民が選択したことはないし、政治家も原子力のことを何も知らない」と指摘。

 要するに、どこの国も同じということか…。


終わらないウラルの核惨事

No.0012 2011年5月21日

 5月16日と17日にNHK-BS「世界のドキュメンタリー」の「シリーズ 放射性廃棄物はどこへ」で放送された「終わらない悪夢(前編・後編)」。2009年フランス制作。まあ、昨今、原発や放射能関連の特番・特集の類は枚挙に暇がないので、この番組は観るだけで、当コーナーでは軽くスルーしようと思っていたのだけれど。実際に番組を観たところ、「これは大変だ」ということになり、とても素通りはできなかった。というのも、どちらかと言うと先進国の放射性廃棄物の話かなと思っていたのだが、実際には話のかなりの部分をロシアが占めていたからである。

 とくに、前編の方は、米国のハンフォード核施設も取り上げられてはいたが、実質的に「ウラルの核惨事」に関するドキュメンタリーと言ってもいいくらいだった。ウラルの核惨事とは、チェリャビンスク州オジョルスク市(秘密都市であり暗号で「チェリャビンスク40」と呼ばれた)にある軍事用核燃料施設「マヤーク」で、1957年に廃液貯蔵タンクが爆発して周囲に甚大な放射能汚染をもたらしたというものである。まあ、この事故に関してはロシアや核問題に関心のある人間だったら誰でも知っているわけだけど、今回のドキュメンタリーを観る限り、今も問題は続いており、現在進行形の出来事のようなのである。私なども、「大昔にそういう大事故があった」という程度のイメージしかなく、認識が甘かったと反省した次第だ。

 以下、印象に残ったシーンをまとめておく。

 「ウラルの核惨事」は、ソ連から英国に亡命したジョレス・メドヴェージェフが告発したことにより、初めて明らかになった。しかし、原発を推進しようとしていた先進国は、彼の告発を無視したという(CIAなどは独自にウラルの核惨事の事実を掴んでいたにもかかわらず)。

 というか、ジョレスさん、まだご健在だったか…。

 これが核施設「マヤーク」の遠景。エリツィン時代に一時期取材が許されたこともあったが、現在は再び秘密のベールに閉ざされている。

 なお、マヤークについては、こちらのブックレット参照。

 核施設マヤークでは、廃液をカラチャイ湖に投棄していた。放射能レベルがきわめて危険な水準に達したため、湖を埋め立てることになった。埋め立て作業はきわめて危険であり、写真のように5トンの鉛で覆われたトラックで作業を行ったものの、それでも12分間しか作業ができなかったいという。90年代に撮影された貴重な映像。

 その後、埋め立てられたカラチャイ湖に代わり、別の人造湖を作ってそこに投棄するようになった。

 しかし、その人造湖から汚染物質がテチャ川に流出している。テチャ川の水およびその川底は、トリチウム、セシウム137、プルトニウム239および240で汚染されている。

 テチャ川はオビ川の支流で、最終的には北極海に注ぐ。

 個人的に、まったく認識していなかったが、ウラルの核惨事では、主に少数民族が被害にあったようだ。マヤーク施設から至近のカラボルカは、タタール人の村。そして、テチャ川沿いの住民はほとんどが別の場所へと移住したが、1つだけムスリュモヴォという村が残っており、その住民もタタール人のようである(写真)。

 村人は、1人当たり100万ルーブル(300万円くらい)の保証料で当局から立ち退きを打診されているが、その程度の額では新天地で生活を始めるのはとても無理という。

 ムスリュモヴォ村で最も汚染されているという地点。左上の廃墟はかつての高校。往時には村人に愛された憩いの場所だった。現在は立ち入りが管理されているようだが、牛が草を食んでいる。

 村人は、食べ物は村外のものを買うように当局から言われているものの、この女性は「家庭農園なしではやっていけない。この牛乳ももちろん飲んでいる」と話す。

 当局は水や牛乳を検査しているものの、具体的な汚染数値は教えてくれないらしい。

 汚染地では1950年代から住民の健康調査が行われているが、被曝線量と癌発生率と死亡率には明確な相関関係がある。

 こちらは州行政府の担当官。テチャ川の水は農業には使えないが、沿岸の放射線レベルは基準を下回っており、暮らすには問題ない。基準を下回っている以上、住民を移住させる法的根拠は存在しないと主張する。

 この番組を通じて、結局当局はムスリュモヴォ村の住民を移住させたいのか、させたくないのか(データをとるため?)というのが不明確だったが、おそらくそのあたりはグレーで、担当機関や部署により微妙にニュアンスが異なるといったところではないかと思われる。

 


ウクライナで一番若い都市スラヴティチ

No.0011 2011年5月18日

 No.0006の記事で語った「シリーズ チェルノブイリ事故 25年」の第2話「被曝の森はいま」に、興味深いくだりがあった。チェルノブイリ原発の労働者たちは、もともとはプリピャチという街に住んでいたわけだが、現在原発の後処理に当たっている職員たちは、スラヴティチという街に住んでいる。そして、スラヴティチから毎日電車に乗り、ベラルーシ領を横切って(!)、勤務先に向かっているというのだ。原発事故の悲劇性は別として、経済地理オタク、都市マニアとしては、つい興味をそそられる話だったので、このスラヴティチという街について調べてみた。

 スラヴティチは、1986年、つまりはチェルノブイリ原発事故の年に誕生した街であり、「ウクライナで最も若い都市」ということである。1986年10月2日、チェルノブイリ原発職員とその家族 が住む新しい街として、スラヴティチを建設することが決定された。突貫工事が行われた結果、早くも1987年には最初の人々が移り住んだ。面白いことに、スラヴティチ市は地理的にはチェルニヒウ州の内部にありながら、キエフ州の飛び地領土になっている。チェルノブイリ原発がキエフ州に属していることから、その職員たちが居住するスラヴティチもキエフ州という扱いになったであろう。下の地図に見るとおり、確かにスラヴティチからプリピャチにまっすぐ伸びている鉄道が、ベラルーシ領土(ベラルーシ最南端の突出部分)を横切っている。まさか、毎日通勤電車で出入国検査をやっているということはないと思うが 、そのあたりはどうなのだろうか?

 ところで、「スラヴティチ」というのは聞き覚えのある名前であり、ウクライナのビールのブランドや、サッカーチームのFCスラヴティチ・チェルカスィなどの名として知られている。 今回初めて知ったが、実は「スラヴティチ」はドニエプル川の旧称とのことであり、だからウクライナの色んなものにその名が付いているわけだ。

 現在のスラヴティチ市の人口は2.5万人ほどであり、大人は大半がチェルノブイリ原発の後処理の仕事をしている。なお、スラヴティチには経済特区が設けられている。

 


ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」

No.0010 2011年5月16日

 昨日NHK教育テレビで放送されたETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」。とても地味なトーンの番組だったが、それだけにかえって、視聴者に重い現実を付き付ける内容だった。

 この番組の主たる登場人物の一人は、放射線衛生学を専門とする研究者で、厚生労働省の研究所に勤務していたが、今回の原発事故後に自主的な放射能測定活動を勤務先から禁止されたということで、職場に辞表を提出し、その後仲間の研究者たちの支援を受けながら、原発周辺地域を自ら隈なく調査して、放射能汚染地図を作成した、ということだ。その結果完成したのが、下の地図である(赤っぽいところほど汚染が激しい)。

 しかし、一体何という国なのだろうか。本来であれば政府が早急に調査を行って、国民に情報を開示すべきところを、国立研究所にいられなくなった研究者が、手弁当で汚染マップを作成しているとは(手作りマシンみたいの駆使して)。こういう情報がないから、実は20km圏内よりも汚染が激しいような場所へと、人々が何も知らずに避難するようなことが生じていたのだ。

 この番組、最初から「ETV特集」の枠で制作されたみたいだけど、昨日のつまんなそうなNHK特集をやるくらいだったら、こっちを表に回した方がよかったんじゃないかと思う。

 この番組を見ていたら、自分のなかで、政府への不信感がますます募ってきた。


ウクライナの放射能汚染地図

No.0009 2011年5月16日

 このコーナーも記事が増えてきたので、冒頭に目次を設けてみたので、よろしく。というか、最近このコーナーばっかり更新しているような気が……。

 さて、ウクライナの最新の地図帳を眺めていたら、チェルノブイリ原発事故による同国の放射能汚染地図が出ていた。個人的にこれまでベラルーシのこの手の地図は嫌というほど見てきたが、ウクライナの汚染地図をあまり見た記憶がないので、スキャンしてアップしておく。左下のサムネイルをクリックしていただきたい。左下の部分が凡例になっていて、数字はセシウム137の汚染程度を示しており、単位は1平方キロメートル当たりキュリーであり、当然赤っぽい色が濃いほど汚染が激しいことを意味する。

 右下の地図はオマケで、同じ地図帳に出ていた、ウクライナの電力マップ。赤が火力発電所、青が水力発電所、灰色が原子力発電所の所在地を示している。


ラトビア>ロシア>ウクライナ>ベラルーシ

No.0008 2011年5月14日

 4月26日にチェルノブイリ原発事故から25周年を迎えて、当然のことながら現地でも多くの報道が出た。個人的に多忙で、それらの報道を消化する時間もあまりなかったが、少しだけでもやっておきたい。

 まず、ウクライナの『ジェーラ』誌のサイトに、チェルノブイリ被害者への社会保障の充実度に関する国際比較の記事が出ていたので、その要旨をまとめておく。結論から言えば、タイトルに掲げたように、ラトビア>ロシア>ウクライナ>ベラルーシということになるらしい。なお、原文では「チェルノブイリの人々(Chernobyl'tsy)」という言葉が使われており、私の理解によればこれは、原発事故の処理に当たり被曝した兵士などのいわゆる「リクヴィダートル」と、放射能汚染にさらされた一般住民との、両方を示していると思う。以下では「チェルノブイリ被害者」と訳す。

*            *            *            *            *

 チェルノブイリ被害者への社会保障が最も行き届いているのは、ラトビアである。これは、一つには自国市民への思いやりのレベルが高いことによるが、もう一つには被害者の数が5,000人以下と少ないという事情もある。ラトビア・チェルノブイリ連合のカルヌィヌィシ書記長によれば、「被害者は全員、国の保護下にある」。年金の増加額が月150〜200ドルであり、医療費は無料で、土地税は半額。毎年一度、無料で保養地に出かけられる。地方によって異なるが、たとえば首都リガでは交通費も無料。ちなみに、ラトビアのザトレルス大統領は自身が元リクヴィダートルであり(チェルノブイリ事故処理に軍医として参加)、世界で例を見ないケース。

 ロシアも、自国のチェルノブイリ被害者への配慮は手厚い。ロシアのチェルノブイリ被害者の年金額は、ウクライナの2倍の水準(ロシアでは約400ドル、ウクライナでは約200ドル)。また、医療は無料で、年に1回保養に行ける。ロシアでは被害者への住宅供給も進捗しているが、ウクライナではもう10年間も建設がなされていない。ロシアにはチェルノブイリ障害者問題委員会が設定されており、その会長にはメドヴェージェフ大統領が就いており、またプーチン首相が年に2〜3度面会している。

 それに対し、ウクライナ・チェルノブイリ連合のアンドレエフ会長によれば、ウクライナでは政府がチェルノブイリ被害者を無視しており、チェルノブイリ関係プロジェクトの予算をカットしようとしている。ウクライナの被害者たちは、見捨てられ、自分たちが国に必要でないという気持ちを抱いている。

 一方、ベラルーシではどうか? モズイリ市の被害者団体「ダパモーガ」のザイツェフ会長によれば、ベラルーシの国家予算ではチェルノブイリ問題を解決するための歳出が一切計上されていない。ベラルーシでチェルノブイリ被害者への優遇措置は、大学が無料になることだけ。ベラルーシではチェルノブイリ被害者が薬代も自分で出さなければならない。ザイツェフ会長は、「ベラルーシがチェルノブイリ事故最大の被害国であるにもかかわらず、ベラルーシの政権は国内にチェルノブイリ被害者がいないと考えている」と批判する。

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 以上が『ジェーラ』のサイトに出た記事の概要なのだが、最後のベラルーシのくだりには、ちょっと注釈が必要かと思う。というのも、ベラルーシは毎年、国家予算の20%近くをチェルノブイリの被害対策に充てていることが知られており、ルカシェンコ大統領もしばしば、「我々はそういう多大な負担を独力で背負っているのだ」ということを強調している(そして、「だからロシアはガスを安くするべきだ」とか、論理が飛躍する)。したがって、上掲のザイツェフ氏の発言は、やや正確でないと思われる。

 ユーチューブにアップされているこちらのニュースによれば、ベラルーシがこれまでに投じてきたチェルノブイリ関係の国家予算は累計で200億ドルに及ぶとのことで、さらに向こう5年間を対象とした20億ドルの新プログラムも採択されたということである。カネは確かに使っているのだ。しかし、このニュースを眺めても、ベラルーシではどうも、チェルノブイリ対策費が農地の再生とか産業の振興とか、そういうソビエトっぽい前向きな経済建設に使われる傾向があるようで(それはそれで悪いとは思わないが)、被害者の社会保障といった人道的な方向には向かいにくいのかもしれない。


原発は安くない

No.0007 2011年5月14日

 先日テレビ朝日の「モーニングバード」という番組で面白い話をやっていた。一般に、原発は火力や水力と比べてコストの安い発電と信じられており、それが原発推進の大きな根拠となっている。しかし、そのコスト比較は当局の恣意的なモデルによるものであり、大島先生という研究者が過去日本の電力産業で発電種類ごとに実際にかかったコストを試算してみたところ、原子力の優位は疑わしいものとなった(写真上)。しかも、税金というファクターも考慮に入れると(電力料金から徴収される税金の多くの部分が原発立地地域における箱もの建設などに費やされている)、実は原子力が最も高コストになるということだ(写真下)。

 言うまでもなく、これらのコストには、事故が起きた際の処理費用や被害者への補償金などは含まれていない。


NHK-BS「シリーズ チェルノブイリ事故 25年」

No.0006 2011年5月14日

 5月9日から11日にかけて3夜連続で、「BS世界のドキュメンタリー」の枠で、「シリーズ チェルノブイリ事故 25年」というのが放送された。その内容と私個人の感想を簡単にまとめておきたい。

 3つのドキュメンタリーは、制作された年も国もそれぞれに異なるが、事故発生当時の状況というよりも、その後の歳月に焦点をあてているという点に共通性がある。第2話の「被曝の森はいま」を除くと、驚くような新事実はとくになかったが、それぞれの視点で四半世紀の時を切り取っており、原発についての選択に直面している今日の我々に多くの問いを投げかけていることは間違いない。気になったのは、3話とも舞台がほぼウクライナ領土に限られ、放射能汚染という尺度では最大の被害国であるベラルーシがまったく出てこないことであり、このあたりはベラルーシ自身の閉鎖性やアピール不足(というか痩せ我慢)が原因であろう。

 番組は、NHKオンディマンドで観られるそうなので、関心のある方はぜひどうぞ。

 5月9日放送の「永遠のチェルノブイリ」は、NHKがフランス・ベルギーなどと共同制作した2011年の最新ドキュメンタリー。ウクライナ本国でも事故から25年が経ち、大惨事の風化が進んでいる。事故後に生まれ育った若い世代の間では、チェルノブイリを題材としたテレビゲームがつくられたり(写真上)、それについての曲を歌うロックバンドが現れたりしている。このドキュメンタリーでは、それらの若い世代の視点を通じて、事故を見つめ直すことを試みている。
 5月10日放送の「被曝の森はいま」は、2010年フランス制作。科学的な関心から言えば、3つの作品中これが最も興味深い内容だった。過去25年で、汚染された森の野生の動植物はどうなったのかという問題を、断片的ではあるが、跡付けたものである。

 結論から言うと、一定量以上の高濃度汚染に見舞われた森では、事故後すぐに、動植物はいったん死滅した。しかし、ある程度の時間が過ぎると、隣接する地域から動植物が流入し、今日では一見すると野生の王国と見まごう繁栄ぶりを呈している。野ネズミなどの例に見るように、哺乳類はまったく問題がないかのように汚染環境に適応しており、元々秘められている遺伝子修復機能が発揮された形。原発事故により自然が回復するというアイロニーがある。しかし、鳥類について見ると、たとえば高濃度汚染地でもツバメの姿は見られるものの、奇形が生じており、子孫を残すのは不可能で、つまりは別の場所で生まれた個体が一世代ごとに汚染地に流入しているということである。

 というわけで、全体的なトーンとしては、「動物の放射能汚染環境への適応能力は驚くべきものである」というものであり、反原発派は拍子抜けするかもしれない。原発推進国たるフランスの制作というバイアスは、あるのか、ないのか……。

 5月11日放送の「見えない敵」は、2006年ドイツ制作。とても沈鬱な作品。独ソ戦の痕跡を撮影するためにウクライナを訪れ、通訳のウクライナ女性と結婚することになったドイツ人のドキュメンタリー作家が、その最愛の妻を放射能の影響と思われる癌で失ったことから、チェルノブイリの取材を決意し、つくられたという作品。当時『プラウダ』の科学デスクだった重鎮ジャーナリストの証言などは興味深いが、全体的にはわりと特定の個人に密着した人間ドラマ的な内容になっている。

 チェルノブイリを「石棺」と呼ばれるコンクリートの壁で覆ったことはよく知られているけれど、その準備作業としてまず原発に隣接して突貫工事でコンクリート工場を建設したというくだりがあった(写真上)。正直、そんなことまでは今まで知らなかった。

 それから、これはブログにも書いたことだけど、チェルノブイリ事故の処理に当たった兵士たちは、夜は意外に仲間同士で和気藹々と楽しく過ごし、その時開催されていたFIFAワールドカップ・メキシコ大会をテレビで夢中になって観戦した、とのことだ (写真下)。チェルノブイリ原発事故と、「マラドーナの大会」と呼ばれたメキシコW杯。言われてみれば、確かにどちらも1986年の出来事である。原発事故が4月26日で、W杯が5月31日から6月29日。しかし、当時私はサッカーに多少の興味はあったものの、一人暮らしでテレビのない生活をしており、メキシコW杯は一切観なかったので、この2つが時系列的につながった出来事だというイメージが浮かばない。

 


ロシア・NIS諸国の発電内訳

No.0005 2011年5月8日

 今般発行されたUnited Nations, 2007 Energy Statistics Yearbook, New York (2010) に、2007年の世界各国の発電データが掲載されているので、そこから私の研究対象地域であるロシア・NIS諸国のデータを拾って図表を作成し、紹介してみたい。参考までに日本のデータも付記する。

 図表に見るように、これらの国々で現在のところ原子力発電を行っているのはロシア、ウクライナ、アルメニアの3国であり、とりわけウクライナでその依存度が大きいことが分かる。興味深いことに、ロシアは日本と発電総量がほぼ同じくらいで、その内訳も概ね似通っている。目立っているのは、ベラルーシやモルドバで火力発電の比率がきわめて高いことで(河川はあるが国土が平坦なので水力発電には適さない)、これはすなわちロシアから輸入する燃料への依存度が高いことを意味する。ベラルーシの場合は、だからこそ原発を建設しようという方向になっているわけだが、その原発の分野でもロシア頼みというところがジレンマである。

2007年のロシア・NIS諸国の発電量(100万kWh)

  発電量  
火力 水力 原子力 地熱
ロシア 1,015,333 675,820 178,982 160,039 492
ウクライナ 196,251 93,405 10,259 92,542 45
ベラルーシ 31,829 31,793 35
モルドバ 1,103 1,070 33
カザフスタン 76,621 68,450 8,171
キルギス 16,237 2,289 13,948
ウズベキスタン 48,950 42,550 6,400
トルクメニスタン 14,880 14,877 3
タジキスタン 17,494 380 17,114
アゼルバイジャン 21,847 19,483 2,364
アルメニア 5,898 1,489 1,856 2,553
グルジア 8,329 1,514 6,815  
ロシア・NIS合計 1,454,772 953,120 245,980 255,134 537
参考:日本 1,133,711 779,970 84,234 263,832 5,675

 

2007年のロシア・NIS諸国の発電構成比(%)

*地熱発電は微量なので、図では省略した。


完全廃炉のその日まで

No.0004 2011年5月7日

 私は小学校の時に、学校の行事で、浜岡原発に見学に行ったことがある。詳細は覚えていないが、遠足か社会科見学か何かで、御前崎周辺のスポットをいくつか巡り、その一環として浜岡原発にも立ち寄ったのだと思う。ただし、内部などを見学したわけではなく、建屋を遠巻きに見たくらいだった気がする。浜岡原発の一号炉が稼働したのは1976年ということであり(それは私が小6の年だ)、我々が現地を訪れたのはたぶんその1〜2年くらい前で、稼働前だったんじゃないだろうか。いずれにしても、チェルノブイリもスリーマイルも起きる前の話であり(当時は石油ショックの方が国民には大きなトラウマだった)、「輝ける未来のエネルギー」を子供たちに見せようという、そんな趣旨だったのだろう。

 さて、昨日、2011年5月6日、菅直人首相が、浜岡原子力発電所について、定期検査中の3号機や稼働中の4、5号機も含めてすべての原子炉を停止するよう中部電力に要請、中部電力もこれを受け入れる方向であるという。

 このコーナーを立ち上げた主たる動機は、浜岡原発の廃止に向けて微力を尽くすべく、自分なりの情報発信を試みるということだった。これは長い「戦い」になるだろう、我々一部の市民が何を言ったところで国や電力会社が動くことはまずあるまいという気がしていた。なので、コーナー開設からわずか数日で、浜岡が一時停止ということになり、正直少し拍子抜けしている。変な言い方だが、嬉しい拍子抜けといったところか。この国で、人間の良識が勝つこともあるんだと、そんな感慨を覚えた。

 しかし、これはあくまでも「一時停止」ということにすぎない。報道によれば、停止期間は「防潮堤の設置など中長期の対策が完成するまでの間。中部電力は海岸沿いの高さ10メートル以上の砂丘と原発の間に、津波対策として高さ15メートル以上の防潮堤を新設する予定」ということである。

 これはきわめて危うい話だ。東電原発事故で浮き彫りとなったのは、地震・津波という大自然の猛威もさることながら、人間の「想定」と称するものがいかに浅はかであるか、ということだと思う。それはどんな分野であっても同じであるが、こと原子力の場合は、その想定のずれが、取り返しのつかない事態を招くということである。中部電力がやろうとしていることは、東電原発で予想以上に高い津波が来たから、それでは津波の想定高さを引き上げましょうということにすぎず、確かに多少安全度は上がるかもしれないが、本件がはらんでいるカオス的な本質は何も変わらない。おそらく浜岡で問題なのは、原発が震源域、活断層の真上に立地しているということであり、それこそ何が起こるかまったく予想できないという点こそが問題の核心なのだ。それを、直前の東電の事故で津波に関する不安が高まったので、では防潮堤を建設しましょうというのは、子供だましとしか言いようがない。むしろ、その防潮堤とやらが免罪符として使われて、原発の将来的な存続が正当化されるのではないかと、強く危惧する。してみると、これは津波というよりも、世論の波を押しとどめるための防潮堤か?

 というわけで、浜岡原発の完全廃炉が実現するその日まで、私なりの取り組みを続けていくつもりである。


統計で見るベラルーシのチェルノブイリ被害

No.0003 2011年5月5日

 ベラルーシ統計委員会のサイトを見ていたら、「チェルノブイリの悲劇記念日に寄せる統計」というコンテンツが出ていたので、これを翻訳紹介したい。というか、実を言うと、このコンテンツを眺めていて、本コーナーを立ち上げることを思い付いたのだが。

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 チェルノブイリの放射性物質の汚染にさらされたのは、ウクライナ北部、ロシア西部、そしてベラルーシである。

 2011年初めの時点で、ベラルーシでチェルノブイリ原発事故による放射能に汚染されているのは、2,401の居住区となっている(内訳は、市・町が29、農村が2,373)。これはベラルーシの全居住区の10.1%に相当する。そこには114万人が居住し、これはベラルーシの全人口の12%に相当する。都市に住むのが78.3万人、農村に住むのが35.8万人である。放射能汚染区域に住む住民のうち、19.3%(22万人)は0〜17歳の子供である。

 ベラルーシでチェルノブイリ原発事故の被害を最も深刻に被ったのは、ゴメリ州、ブレスト州、モギリョフ州である。2011年初めの時点で、ゴメリ州では87.9万人(州人口の61.3%)が、ブレスト州では11.6万人(州人口の8.3%)が、モギリョフ州では11.6万人(州人口の10.6%)が、汚染区域に住んでいる。

 下表に見るように、住民の汚染区域からの移住、放射線状況の改善により、汚染区域に住んでいる住民の数は、1991年から2011年にかけて71.3万人減少している。

 

1991

1995

2000

2005

2010

2011

放射能に汚染された居住区の数

2,929

2,651

2,606

2,401

放射能に汚染された居住区のうち、

住民が住んでいるところの数

3,370

3,221

2,894

2,631

2,574

2,367

          うち;

 

 

 

 

 

 

放射線定期管理実施区域

2,006

1,933

1,732

1,755

1,726

1,875

移住の権利を有するところ

999

1,102

1,085

843

821

474

将来的な立ち退き地域

307

176

77

33

27

18

優先的な立ち退き地域

58

10

-

-

-

-

汚染居住区に住む住民数

1,852,949

 1,840,951

1,571,036

1,332,979

1,288,225

1,140,377

           うち;

 

 

 

 

 

 

放射線定期管理実施区域

1,489,630

1,485,193

1,246,362

1,136,747

1,104,223

1,021,828

移住の権利を有するところ

281,309

314,193

296,803

192,203

181,041

116,662

将来的な立ち退き地域

79,066

41,282

27,871

4,029

2,961

1,887

優先的な立ち退き地域

2,944

283

-

-

-

-

 

 セシウム137の自然崩壊により、セシウム137の汚染面積は5年間で110万ha減少し、2011年1月1日現在で301万haとなっており、これはベラルーシの国土面積の14.5%に相当する。

 汚染地域のうち、放射線レベルが1平方キロメートル当たり1〜5キュリーの区域が209万ha、5〜15キュリーの区域が66万ha、15〜40キュリーの区域が22万ha、40キュリー以上の区域が4.5万haとなっている。最も酷い40キュリー以上の区域の内訳は、ゴメリ州が4万ha、モギリョフ州が0.5万haである。下図は、セシウム137に汚染された面積の州別内訳である(%)。

 放射性物質が周辺に拡散するのを防止するため、汚染区域では毎年、播種および植樹作業が行われている。その作業が行われた面積は、下図のように推移しており、2010年には6,617haで当該作業が行われた。

 ベラルーシにおいて、チェルノブイリ原発事故で最も深甚な被害を受けたのはゴメリ州のブラギン地区、ナロヴリャ地区、ホイニキ地区であったが、1988年にそれらの地区を対象とする「ポレシエ放射能・環境保護区」が設けられた(広さは2011年1月1日現在で2,166平方キロメートル)。放射性物質が域外に拡散するのを防ぎ、エコロジーの均衡が崩れないよう、厳しい監視が続けられている。


アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り ―未来の物語』

No.0002 2011年5月4日

 スベトラーナ・アレクシエービッチという人の書いた『チェルノブイリの祈り ―未来の物語』という本がある(松本妙子訳、岩波書店、1998年)。ベラルーシ人作家が書いた、チェルノブイリ原発事故の被害に関するルポルタージュだ。10年ほど前に読んだことがあるが、このコーナーのネタにすべく、読み返してみようかと思い立った。そして、ネットで調べてみたら、ビックリ。岩波書店ではすでに品切となっていて(重版未定)、そしてアマゾンでは中古品に5,000〜7,500円程度の値段がついている(定価は2,100円なのだが)。この手の本で、これだけプレミアが付くのは、稀だろう。おそらく、東京電力の原発事故が起きて、その直後にチェルノブイリの25周年もあり、多くの人がチェルノブイリ関連の書籍を求めた結果、需要が急増したのだろう。

 ただ、この本は確かに秀逸で興味深く読んだ覚えがあるが、チェルノブイリ原発事故および被害そのものの科学的検証や事実関係について実証的にまとめたような内容ではない。事故に巻き込まれたり被害を受けたりした人々の証言に耳を傾けながら、ソ連/ベラルーシ社会の在り方や、人間の存在について問うような、そんな内容だったと記憶している。

 個人的には、さすがに数千円出すのはつらいので、もうちょっと値段が落ち着いたら、再度読んでみようかと思う。


原子力についての個人的立場

No.0001 2011年5月2日

 これは4月16日のブログに書いたことだけど、コーナーを立ち上げるに当たって、所信表明的な意味合いで、コピーして再録しておく。

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 原子力についての旗幟を鮮明にしなければならないのかもしれない。

 個人的に、原子力発電についてはその安全性に不安を覚えつつも、過去数年はむしろ地球温暖化の方が喫緊の脅威であるように思われたので、一市民としては容認的な姿勢になっていた。

 他方、職業人としてのジレンマもある。私の所属団体は経済産業省の外郭団体であるし、日本とロシア・NIS諸国の経済関係を促進することが仕事なので、その一環として原子力をテーマとして扱うことも多い。

 こういう次第なので、もしも他人から、「お前の原子力に対する態度はどうなんだ。はっきりしろ」と言われても、明答できない状況である。「安全性に十二分に配慮しつつ、コストとベネフィットを天秤にかけたうえで、便益の方が上回るなら推進してもいい」といった玉虫色の立場にならざるをえない。ただ、私のような素人にコストとベネフィットを客観的に判断するすべはないので、実質的に意見をもっていないのと同じである。

 ただし、故郷・静岡県にある浜岡原発に対する態度だけは、はっきりしている。廃止するべきだ。近いうちに必ず大地震が来ることが分かっている地域に原発を配置することは、どう考えてもリスクが大きすぎる。当局は震災への対策は抜かりないと主張するのだろうが、今回の福島原発事故でも改めて浮き彫りになったように、専門家の「想定」と称するものほど当てにならないものはない。中部地方の電力バランスからして、浜岡原発が絶対に必要ということはないはずだ。万が一、浜岡原発で大事故があり、近くを通る東海道新幹線も東名高速も不通などということになったら、日本の経済は完全に麻痺する。つまり、本件に限っては、便益よりもリスクの方があまりにも大きいことは明らかであり、よって廃止すべきだというのが個人的な意見である。

 実は、2月頃に、日本のある原子力関係の広報団体から、相談を受けていた。もうすぐチェルノブイリ原発事故25周年なので、原子力に関する悪い「風評」がまたぞろ高まったりする恐れもあるので、本件に関し事実を冷静に伝える広報活動を企画しており、ついてはウクライナに関連する部分の協力をお願いできないか、ということだった。私はそれに内諾し、「ウクライナとチェルノブイリの25年」みたいなエッセイを書くつもりでいた。ただ、さすがに、3月以降、同団体から連絡はない。決して定見は持ち合わせていないこの私だし、そのエッセイのなかで原発の是非などを論じるつもりはなかったが、いずれにしても、今となっては書かなくてよかったと思っている。

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 今日はコーナーの新設作業に手間取って、肝心の記事らしい記事が書けなかった。また後日。


 

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