2012年のウクライナにおけるユーロ(ポーランドと共催)、2018年のロシアにおけるW杯と、私の研究対象国で相次いで大きなサッカー大会が開催されます。そこでこのコーナーでは、両大会に向けた動き、関連した両国の国情など、私なりの角度から情報を発信していきたいと思います。


EUの政治家たちがウクライナでのユーロをボイコット

No.0101 2012年5月6日

 ウクライナ・ポーランド共催のサッカーのヨーロッパ選手権、ユーロ2012がいよいよ間近に迫ってきた。しかし、例のティモシェンコ事件が尾を引いて、どうも西欧の政治家たちがウクライナでのユーロをボイコットするという動きになっているらしい。また、ウクライナでは4月27日に東部の都市ドニプロペトロウシクで爆弾テロ事件があり、同市はユーロの開催都市ではないものの、これもウクライナでのユーロ開催を疑問視する声に繋がっているようである。むろん、現実的には今さら大会が中止になったり、西欧諸国の代表チームが出場を取りやめたりといったことはまず考えられないが、大会に関連してEUや西欧諸国の首脳がウクライナを訪問することは見合わせるという流れになっているようである。こちらのニュースによれば、バローゾ欧州委員会委員長をはじめとるすEU幹部は、誰一人としてユーロに関連した行事に出席するためウクライナを訪問する意向はないとのことである。

 ティモシェンコ事件についての評価は別として、ウクライナにとってのせっかくの晴れ舞台なのに、残念なことになってきた。


五輪サッカー男子組み合わせ:ベラルーシ特需ならず

No.0100 2012年4月25日

 五輪サッカー男子の組み合わせが決まり、日本はスペイン、ホンジュラス、モロッコと対戦。個人的には、ベラルーシと同組になって、「特需」が起きることを期待していたのだが…。私のブログやHPの閲覧数が急増するとか、突然本がバカ売れするとか(笑)。残念無念。orz

 ただし、決勝トーナメントの組み合わせを見ると、1回戦で、日本の属すD組の1位と、ベラルーシの属すC組の2位、またD組2位とC組1位がぶつかることになっている。D組ではスペイン、C組ではブラジルという本命がいるため、日本またはベラルーシのいずれかがグループステージを1位で突破するというシナリオはハードルが高そうだが、強豪国はグループステージでは力を温存することもあるため、決勝トーナメントで日本VSベラルーシが実現することも、まったくありえないわけではないだろう。まあ、仮に当たったとしても、対戦が決まってから試合までに数日しかないだろうから、「予習」のために私の文章を読んでもらえるチャンスは、あまり大きくないかもしれないが、そんなことは別として、実現を祈りたいものだ。

 さて、ベラルーシのサッカーと言えば、日本時間本日未明のチャンピオンズリーグ準決勝2レグ、バルサVSチェルシーを観て、昨年のCLグループステージのBATEボリソフVSバルサ戦を思い出してしまった。BATEが人類サッカー史上最も極端と思えるほど引いて守った試合だったが、結局はバルサの攻撃の圧力に抗しきれず、完敗した試合だった。チェルシーの戦い方も同じような感じではあったものの、やはり守備の強固さと、ボールを奪った時の一発の迫力が、BATEとチェルシーではまったく違っていた、ということかな。


意外と興奮したスポルティングVSメタリスト戦

No.0099 2012年3月31日

 今季のUEFAのコンペティションで、ロシアおよびウクライナのチームがすでにほぼ全滅状態で、個人的にガッカリしている。そんななか、唯一、ヨーロッパカップで生き残っているのが、メタリスト・ハルキウ。3月29日、準々決勝の1レグ、スポルティング(ポルトガル)VSメタリスト戦がリスボンで行われたので、それをスカパー!でテレビ観戦した。

 しかし、認識していなかったけど、メタリストには、主力選手でウクライナ人プレーヤーがほとんどいないんだなあ。29日のスタメンでは、ウクライナ人はGK1人だけで、フィールドプレーヤーは全員外国人だった。メタリストの場合は、特にアルゼンチン人が多いようだ。ロシア・ウクライナ圏では、シャフタール・ドネツィクとか、CSKAモスクワとか、強豪チームほど攻撃陣を助っ人に依存している傾向があるけれど、このメタリストのように守備陣も含めてほぼ全員が外国人というチームはさすがに珍しいだろう。以前も書いたことがあるが、ハルキウのサッカー文化はヤロスラウシキー氏というにわか成金が札束で急ごしらえしたものという側面があって、そのあたりがこうしたチーム構成に表れていると言えそうである。

 さて、個人的に、当然ウクライナのチームを応援はするが、メタリストは特に思い入れているチームではなく、しかもこのように外国人主体のチームとなると、多少白けた気分にもなるのだが。しかし、結果的に29日のスポルティングVSメタリスト戦は、意外と興奮してしまった。最終スコアは2対1でスポルティングが勝利したわけだが、2点リードされて絶望しかけたところで、試合終了間際にメタリストが貴重なアウェーゴールを1点返すという劇的な形でゲームが終わった。面白いもので、最後の1点で、お祭りムードだったリスボンのスタジアムが、まるで負けたように静まり返っていた。メタリストとしては、2レグでセンターバック2枚を累積警告で欠くのは痛いが、希望を残す形となった。


ほぼ毎週モスクワ・ダービー

No.0098 2012年3月23日

 3月19日にモスクワのルジニキ・スタジアムで開催されたロシア・プレミアリーグの一戦、スパルタク・モスクワ対CSKAモスクワの「モスクワ・ダービー」を、スカパー!の録画でテレビ観戦した。結果は2対1でCSKAが勝利し、首位ゼニトとの勝ち点差を6として、どうにか優勝争いに踏み止まった。なお、怪我の癒えない本田は、引き続きメンバー外。

 現在行われているプレミアのリーグ戦は、春秋制から秋春制への移行のための変則日程になっていて、残り3分の1に該当する現在のステージは、上位8チームと下位8チームに分かれ、それぞれで順位決定の戦いが繰り広げられている。よく考えてみると、上位8チームのうち、4チームがモスクワのチームなわけだから、ほぼ毎週のように、何らかの組み合わせの「モスクワ・ダービー」が戦われていることになる。私が計算したところ、任意の節でモスクワ・ダービーがまったく組まれない確率は約22.9%しかなく、つまりは8割近い確率でモスクワのチーム同士がぶつかり合っているという計算になる(計算が間違っていたら相当恥ずかしいが…)。これだけ頻繁だと、ダービーマッチの有難味というものも、少々薄れるかもしれない。まあ、さすがにスパルタク対CSKAの対戦は、巨人VS阪神的な「伝統の一戦」と位置付けられるようで、19日も巨大なルジニキ・スタジアムがかなりの観客で埋め尽くされてはいたが。

 スパルタクのユニフォームには、韓国の自動車メーカー「起亜(KIA)」の広告が見られ、対するCSKAのユニも「現代(HYUNDAI)」の広告を掲げていた。個人的には、ロシアのサッカーの現場で、日系企業の広告も見れたら嬉しいのだが。


ゼニト・サンクトペテルブルグの冒険終わる

No.0097 2012年3月8日

 UEFAチャンピオンズリーズ(CL)のベンフィカVSゼニト・サンクトペテルブルグ戦を観た。初めてCLの決勝トーナメントに進出したゼニトだったが、ホーム&アウェー2試合合計でベンフィカが上回り、ベスト16で姿を消すこととなった。私としては、昨年秋のシャフタール・ドネツィクとのアウェー戦で見せてくれた質の高い攻撃に魅了され、ロシアのチームとしてはゼニトが最もお気に入りになっていただけに、個人的にも残念である。

 ゼニトは、ホームのファーストレグでは終了間際に劇的な決勝ゴールを挙げ3対2で勝利したものの、相手にアウェーゴール2つを許しての1点差勝利は、感覚としては引き分けに近いというか、むしろ敵の方が有利という感じもなきにしもあらずである。ホームの初戦で、ゼニトは正GKのマラフェエフが怪我で出場できず、代役GKの不安定な守備で2点を奪われたことが、後々重くのしかかることになる。

 迎えたリスボンでのアウェー戦。前半は、お互いに前線から激しくプレッシャーをかけ合うも、それぞれ守備の意識も高く、決定的シーンはそれほど多くなかった。しかし、前半ロスタイムに、ベンフィカが相手DF陣の一瞬の隙を突いて先制、2試合合計で優位に立った。

 とはいえ、ゼニトが同点に追い付けば次のラウンドに勝ち抜けられるわけで、後半は完全にベンフィカが引いてゼニトが攻めるという形勢となった。しかし、ほとんど有効な攻撃が組み立てられず、シュートは数えるほど。先日の国内のCSKA戦では躍動していたFWケルジャコフも、この試合では鳴りを潜め、実況が名前を呼ぶ機会も少なかった。いつもは敵守備陣をかき回すFWダニは怪我で離脱中、一方先日レンタルで戦列に加わったFWアルシャヴィンは出場できないということで(未確認だが、今季すでにアーセナルでCLの試合に出ていたはずなので、冬の市場で移籍した場合に別のチームでCLには出れないはず)、前線で決定的な仕事ができる駒が不足している感は否めなかった。結局、ゼニトは最後までゴールを割れず、後半ロスタイムには駄目押しとなる2失点目も食らって、万事休すとなった。

 しかし、スカパー!の後藤さんの解説を聞いて驚いたけど、ポルトガル随一の人気を誇るベンフィカというチームには(少なくともこの試合の出場メンバーには)、ポルトガル人プレーヤーが1人もいないんだね。それで、ゼニトにはポルトガル人DFのブルーノ・アルヴェスがいて、途中出場した彼がボールを持つたびに、スタジアムから強烈なブーイングが浴びせられるという……。まあ、日本人みたいに、海外に移籍した日本人選手を、日本人であるというだけの理由で、自分たちの代表のように応援するのも異常だと思うけど、このリスボンでの試合で唯一ピッチに立ったポルトガル人プレーヤーを徹底的にいじめ抜くポルトガルの観衆というのも、私には理解しがたい。まあ、そのせいか、ブルーノ・アルヴェスは2~3本パスミスをしており、ブーイングが多少なりともベンフィカの勝利に結び付いたのも事実だが。

 そんなわけで、ゼニト初のCL決勝トーナメントの冒険は終わった。近年躍進著しいゼニトだけれど、ヨーロッパレベルで見れば、まだまだビッグクラブというよりもミドルクラブくらいの位置付けなのかな。


再開するロシア・プレミアリーグの展望

No.0096 2012年3月3日

 冬季休暇で中断していたロシア・プレミアリーグが3月3日に再開するのを前に、こちらの記事が残りのシーズンの展望を論じているので、以下のとおり抄訳しておく。

 ウィンターブレーク中に上位のクラブは、より上の順位とUEFAのカップ戦への出場権をめざして補強を行っており、これが力関係を変えることは大いにありうる。秋春制への移行に向けた変則シーズンである今季は、残りのリーグ戦を上位グループと下位グループに分けて戦うことになっており、上位グループでは直接対決が続くので、順位が動きやすく、スリリングなリーグ戦になる。

 首位のゼニトは、当初ストーブリーグの動きは鈍いように思われ、むしろ内部改革に注力していた。スパレッティ監督は、スポーツディレクターのI.コルネエフの排除に成功し、今やスパルタク・モスクワで監督とGMを兼務して全権を振るうV.カルピンに匹敵する権力を掌握した。ただし、最後の最後になって、移籍市場でも動いた。ウィンドウが閉まるわずか40秒前に、イングランドのアーセナルからA.アルシャヴィンをレンタルで獲得したのである。アルシャヴィンには重い怪我を負っているダニに代わる役割が期待されている。現在6ポイント差をつけて首位に立っているゼニトだが、アルシャヴィンの獲得がなかったら、サポーターの不安は募っていたことだろう。

 ゼニト追撃の一番手は、CSKAモスクワである。CSKAはヴァグネル・ラヴを放出したが、本田圭佑の引き止めには成功し、弱いポジションの補強も行った。具体的には、ボランチのボジションにスウェーデン人プレーヤーのヴェルンブルムを獲得、当初の期待度はそれほどでもなかったが、チャンピオンズリーグのレアル・マドリッド戦で同点ゴールを挙げ、球団社長のYe.ギネルは「もう移籍金の元がとれた」と喜んでいる。右サイドの新戦力である若きナイジェリア人プレーヤーA.ムサは、やはりマドリッド戦で敵の守備陣を脅かしている。

 もう1チーム、補強に成功したのが、ディナモ・モスクワである。同チームの場合、セカンドラウンドが低調だったのは2つのポジションの問題点ゆえだったが、まさにその2つのポジションで補強に成功した。左サイドでアンジ・マハチカラからB.ジュジャクを、セントラルMFにルビンからK.ノボアを獲得した。ただし、外国人枠が一杯になったので、誰かを放出しなければならない。

 これに対し、ロシア人プレーヤーの獲得で補強を成し遂げたのが、スパルタク・モスクワである。これまで同クラブには傑出したロシア人プレーヤーがいなかったが、このほどイングランドのエバートンからロシア代表で左でも中央でもプレーできるD.ビリャレジノフを獲得した。この移籍はロシアのサッカー界に大きなインパクトを与えたが、移籍金は700万ユーロという今日の相場からすれば格安なものだった。

 ロシア人のスタープレーヤーが国外からロシアに出戻るというのがこの冬の移籍市場のトレンドとなり、アルシャヴィンとビリャレジノフの他にも、R.パヴリュチェンコがトッテナムからロコモティヴ・モスクワに移ることになった。パヴリュチェンコは、トッテナムでスタメンを外れることが多かったものの、ヨーロッパリーグや国内のカップ戦とはいえ、出場機会を与えられれば相変わらずのゴール感覚を発揮していた。ヨーロッパリーグでのアトレチコ戦を前にして、FWの駒不足に悩むロコモティヴにとっては、打って付けの人材である。

 しかし、 最大のセンセーションは、アンジ・マハチカラがヒディンク監督を招聘したことである。Yu.クラスノジャン監督はわずか46日間チームを指揮しただけで、1試合の公式戦も戦うことなく、何の説明もないまま解任された。それに代わって、年間1,000万ユーロとも言われる報酬で、ヒディンクを引っ張ってきたのである。これまでアンジにはステータスの高い監督が足りなかったが、ヒディンク以上に権威のある指導者がいるはずもなく、彼にならばロベルト・カルロスやサミュエル・エトーも口答えできまい。3位までの勝ち点差が6しかないことを考えれば、アンジが残りのシーズンで大幅に順位を上げても不思議でない。

 下位グループでは、プレミア残留をかけた戦いが熾烈となる。15位と16位が下部リーグに自動降格するだけでなく、13位と14位も、来季のプレミア参戦をかけて、下部リーグの3位、4位のチームとプレーオフを戦わなければならないのである。


W杯予選ホームでウズベキスタンに敗れる

No.0095 2012年3月1日

 <W杯アジア3次予選:日本0-1ウベキスタン>◇C組◇29日◇愛知・豊田スタジアム。日本がW杯予選のホームで試合を落とすのは、1998年フランス大会の最終予選で1997年9月28日に国立競技場で韓国に1-2で敗れて以来、という。なるほどねえ。あれ以来か。あの、MF山口の芸術ループシュートで先制しながら、終盤押し込まれて、逆転された試合でしょ。そりゃあ随分久し振りだ。

 すでにお互いに最終予選進出を決めているため、微妙な位置付けの試合になったのは事実。とはいえ、日本の選手たちは、ホームだし、今後のこともあるし、勝たなければいけないという意識は充分にあっただろう。ところが、チームのバイオリズムが低下しているところで無理に前がかりになって、そこを突かれてカウンターでやられた、という感じの試合だった。選手個人に関して言えば、内田やハーフナーのミスが多かったような印象を受けたが、やはりチーム全体として低調だったと言うべきだろう。まあ、こんなこともあるさ、としか言いようがない。

 ウズベキスタンは、やはり侮れない相手だった。出場停止が多くて、今回のメンバーは若手や初召集組が主体だったようだが、何と言うか、ソビエト伝統の技術や戦い方が文化として体に染み付いているような印象があり、だから急造チームでも意外にしっかりしたゲームができてしまうのだろう。あのヴァジム・アブラモフという監督(写真)も、結構鋭そうだったなあ。前にも書いたことがあるけど、こういうチームがアジアにあるのは、良いことだ。


CSKA対レアル・マドリッド戦の雑感

No.0094 2012年2月22日

 UEFAチャンピオンズリーグ2011/2012シーズンの決勝トーナメントが始まり、CSKAモスクワは2月21日、ホームにレアル・マドリッドを迎えた。結果は1対1のドロー。得点源のヴァグネル・ラヴが抜けて得点力低下が懸念され、また長いウィンターブレークで試合勘が鈍っていることが心配されたたCSKAだったが、見た感じ、良い準備ができているようだった。ただ、相手陣までボールを運ぶことはできても、アタッキングサードに入るとレアルの強固な守備に跳ね返され、試合を通じて決定的なチャンスはほとんど作れなかった。対するレアルは、氷点下の人工芝の上で(大寒波が続いていたモスクワだったが、この夜はマイナス5℃くらいだったらしい)、本領を発揮するには程遠かったものの、スイッチが入った時の攻撃の鋭さは、やはりCSKAの比ではないなという印象だ。

 レアルが前半に挙げた1点を守りきるかと思われたが、後半23分に本田が投入されるとCSKAにビルドアップのリズムが生まれ、サイドからの攻撃がレアルを脅かし始める。結局、ロスタイムのラストプレーでCSKAに劇的な同点ゴールが生まれ、試合はドローに終わった。

 レアルにとっては、試合終了間際に同点弾を喫したのは精神的にショックだろうが、客観的に考えれば、アウェーゴール1つを奪っての引き分けは、2レグに向けて圧倒的に有利な状況。正直、スルツキー監督のチームに、これ以上の伸び代はなく、マドリッドではレアルが本領を発揮して完勝する可能性が高い。CSKAが波乱を起こせるとすれば、これは日本人としての贔屓目で言うのではなく、本田が完全復調して大活躍するようなケースに限られるだろう。

 テレビで観ていて、印象に残ったのは、モスクワのサポたちが随分行儀良くしているなということ。グループステージではロケット花火をピッチに向けて打ち込むような愚か者もいたが、UEFAから相当強力な指導が入ったのではないか。この日は、ルジニキ・スタジアムがほぼ満員の7万人の観衆で埋まったが、こちらのニュースによると、治安維持のために3,000人の警官隊が投入され、試合中に秩序を乱した観客が70人以上拘束されたということだ。


ヒディンクを迎えるアンジ・マハチカラ

No.0093 2012年2月18日

 ずっと気になっていたテーマであるが、良い機会なので、ここでまとめておく。このところ躍進著しいロシア・ダゲスタン共和国のサッカークラブ「アンジ・マハチカラ」が、かねてから噂されていたとおり、名将として知られ、ロシア代表を指揮したこともあるフース・ヒディンク氏を、監督として迎えることが決まった。本件に関しては日本語でも、こちらの記事などで情報を得ることができるので、私としては側面的な情報を補足したい。

 ダゲスタン共和国というのは、ロシアの北カフカス地域に所在する一連の民族共和国のなかでも、とりわけ人口が多く、また複雑な民族事情を抱えたところである。そもそも「ダゲスタン人」という単一の民族があるわけではなく、「ダゲスタン諸民族」と呼ばれる少数民族の集合体によって住民が形成されている。アンジ・マハチカラというサッカークラブの歴史は比較的新しく、ソ連末期の1991年に設立されたそうである。個人的に「アンジ」という言葉の意味が気になっていたが(どうしてもストーンズの歌を連想してしまう)、今回調べたところ、クムク語(ダゲスタン諸民族の一つであるクムク人の言葉)で「真珠」という意味であり、マハチカラ市の地がかつてクムク語でそう呼ばれていたことから付けられたということである。アンジ・マハチカラはその後ロシア・プロサッカーリーグの1部および2部をさまよっていたが、近年急速に力を付け、2009年に1部で優勝し、2010年シーズンからロシア・プレミアリーグに参戦している。

 そして、2011年1月に、大富豪として知られ、ダゲスタン共和国の古都デルベントの出身であるスレイマン・ケリモフ氏がアンジ・マハチカラのオーナーとなった。ケリモフ氏の人物像に関し、日本語で得られる情報でおそらく一番優れているのは、私が編集している雑誌に掲載した坂口泉「不死身の大富豪スレイマン・ケリモフ」『ロシアNIS調査月報』(2007年8月号)だと思うので、機会があったら参照していただきたい。私のHPでも先日、ロシア・コーナーのNo.0167で関連情報をお伝えした。ただし、ロシア紙に掲載された情報によると、正確に言うとケリモフはアンジを買収したのではなく、クラブの維持費およびインフラ整備費を負担することと引き換えに、アンジの株100%を無償で譲渡されたのだという。それまで、アンジの株の49.9%をダグネフチェプロドゥクト社(マゴメドフ・ダゲスタン共和国大統領が当時のオーナー)が、別の49.9%を家電量販チェーン「エルドラド」の共同オーナーの1人ヤコヴレフが保有していたが、100%をケリモフが無償で取得することになった。その代りケリモフは、選手のサラリーや新規獲得などに毎年3,000万~5,000万ドルを、さらにインフラ整備に2億ドルを投資することを約束したという。アンジは4万人収容のFIFA基準を満たす新スタジアムの建設を計画している。


本田圭佑をめぐる論議渦巻く

No.0092 2012年2月13日

 本田圭佑のCSKAからラツィオへの移籍が土壇場で頓挫したことが、様々な論議を呼んでいる。

 日本の報道のなかで、非常に目立ったのがこちらの記事。「本田圭佑、移籍破談でいつまで続く“監獄”生活。~CSKAにまつわる“何故”?~」というタイトルが物語るように、選手の意向を汲もうとしないCSKAを批判する内容になっている。私自身、決してロシアが好きで同国を仕事の対象にしているわけではないが、一応はそれで禄を食む者として、日本を代表するスポーツメディアに「ロシア人の辞書に『譲歩』という単語は存在しないのだろうか」などと書かれると、ドキっとするところはある。

 それとは対照的な評価を示しているのが、辛口で知られるサッカー評論家の杉本茂樹氏。同氏はこちらのコラムのなかで、現状ではラツィオよりもCSKAの方が格上であり、最高峰の舞台であるUEFAチャンピオンズリーグの戦いの場に身を置き続けるためにもCSKA残留が正解であった、と唱えている。

 私自身は、この2つのコラムとも、やや極端ではないかと感じた。まず、前者の記事はCSKAを金の亡者であるかのように書き立てているが、クラブが決められたルールのなかで利益を最大化しようとするのは当然であり、今回CSKAはルール違反をしたわけではないのだから、CSKAを一方的に非難するのは当たらないのではないかと考える。ただし、私自身、ロシア畑の人間としては本田がCSKAに長くいてくれた方が有難いものの、彼の現在の境遇は何やら蟻地獄にはまり込んでしまったかのようであり、気の毒には感じているが。

 他方、杉山氏の主張も、やや一面的であるという印象を受けている。杉山氏は、ラツィオよりもCSKAの方が現時点のクラブ・ランキングが上であること、コンスタントにチャンピオンズリーグに出場しているのはCSKAであることを根拠に、CSKA残留が正しい選択であると訴える。しかし、私は(個人的な都合で本田のCSKA残留を喜びながらも)本田本人および日本サッカーにとってはやはりラツィオの方がベターではなかったかと考えている。

 確かにロシアの国内リーグは、上から6チームくらいまではヨーロッパ・レベルだけれど、下位はかなりレベルが落ちるし、しかも地方遠征は移動距離や治安の困難も伴う。気候の厳しさは言わずもがなで、特に怪我がちになってきた最近の本田にとっては、ロシアの冬やルジニキ・スタジアムの人工芝は気の毒。だいたい、モスクワという街自体が、住んでいて一つも面白くないし(失敬…)、ストレスばかり溜まるところである。私はロシアを研究対象としているから、毎年モスクワにも行くし、味気ない地方都市も努めて訪問するようにしているが、ちょっと一般の日本人には勧められないというのが本音だ。むろん、観光客がモスクワやサンクトペテルブルグの観光地をスポットで訪れるだけだったら楽しいだろうけど、ロシアに暮らしてそこで働くとなると、それ自体がかなりの負担になると思う。

 その点、イタリア・セリエAの方が、リーグ内の格差はロシアよりも小さいだろうから、仮にチャンピオンズリーグに出れないとしても、国内リーグ戦だけでも充分に研鑽が積めるはず。国内遠征も、行く先々が風光明媚で、ホテルも居心地が良く、食べ物も美味しいのではないか。普通に考えれば、心身ともにポジティブな状態でサッカーに取り組めるのは、やはりイタリアだろうと思う。

 ただし、人間、恵まれた環境の方が良い結果を出せるとは限らないというのも、難しいところ。特に、本田のようなストイックな人間にとっては、モスクワとローマのどちらが本当に良いのかというのは、一概に言えない。一つだけ確実に言えるのは、当面残留が決まったのだから、今はモスクワで頑張ってくれということだけで、そんなことは外野が言わなくても本人が一番分かっているだろう。


ガスプロムがバイエルンと提携との情報にサポは反発

No.0091 2012年2月11日

 こちらの記事によると、ロシアのガスプロム社がドイツ・ブンデスリーガの名門バイエルンのスポンサーになるという観測が浮上し、早くもサポーターの間には反発する動きもあるようだ。

 現在、バイエルンのメイン・スポンサーはドイチェ・テレコムが務めており、一方ガスプロムは2007年からシャルケのスポンサーとなっている。内田篤人のユニフォームの胸のところに、ガスプロムのロゴが入っているので、日本でもお馴染みだろう。

 ところが、この記事によると、先日ガスプロムのミレル社長とバイエルンのヘネッサ社長が会食の場を設けたことから、スポンサーシップに関する観測が浮上した。これについてバイエルン側は、「ミレル氏とはとても和やかな雰囲気のなかで、レストランで楽しい昼食を共にした。ここで強調しておきたいが、我々はシャルケに取って代わってガスプロムをメイン・スポンサーとして獲得するつもりはない。そんな話すらしていない。しかし、何らかの形の協力関係は可能だ」と説明している。ガスプロム側も、同社がバイエルンのスポンサーになるという情報を否定している。なお、今回より少し前に、2012年中にもガスプロムがバイエルンのホームスタジアムのネーミングライツを獲得し、その後にユニフォームのスポンサーにもなるという情報が流れていた。

 このように、ガスプロムもバイエルンもメイン・スポンサーの可能性は否定しているものの、早くも先日のブンデスリーガの一戦で、「NO GAZPROM」との横断幕を掲げるサポーターが南スタンドに現れた(写真参照)。

 個人的には、ガスプロムがアジア・太平洋市場への進出を目論んでいるところでもあるので、金欠Jリーグがロシア資本を取り込んだりすることはアリではないかと思っているのだが……。


ロシアのサッカーは知的で精神的

No.0090 2012年2月4日

 ロシア・サッカー協会のフルセンコ会長が、ちょっと面白い発言をしたので、備忘録のために書き留めておきたい。このほど、トッテナムでプレーしていたパヴリュチェンコがロコモチヴ・モスクワに、エバートンでプレーしていたビリャレジノフがスパルタク・モスクワにと、ロシア人プレーヤーがイングランドからロシアに出戻る動きが続いた。これに関連し、こちらの記事によれば、フルセンコ会長は、イングランドのサッカーがよりフィジカルで速いのに対し、ロシアではより知的で、精神的でもある、と指摘した。したがって、イングランドで成功したとは言えないビリャレジノフもパヴリュチェンコも、ロシア本国では大暴れしてくれるはずで、これはロシア代表チームにとってはプラスである、とのことである。ただ、アーセナルのアルシャヴィンが本国に戻るべきかどうかについては、会長は「本人に訊いてくれ」と述べるにとどまった。

 今後の協会の課題としてフルセンコ会長は、ロシアの地方での活動強化を挙げた。全ロシアでタレントを発掘する必要があり、2011年には協会は支出方針を変更し、地方への支出を4倍に増やした。専門家養成の新たな支出方式を導入し、選手が契約した際にその5%が出身の学校およびクラブに支払われることになった。コーチの報酬は、30万ルーブルから96万ルーブルに引き上げられた。

 フルセンコ会長は、ユーロ2012でロシア代表が優勝をめざすと明言した。


サッカー紀行9:蚊帳の外のドニプロペトロウシク

No.0089 2012年2月4日

 ウクライナ東部の大都市ドニプロペトロウシクは、堂々たる百万都市で、人口数ではキエフ、ハルキウに次ぎ、同国で第3位の座をオデッサと争っている(最近抜かれて4位に落ちてしまった模様)。街は、ハルキウなどよりも垢抜けているのはもちろん、個人的にはキエフよりも洗練されているのではないかという印象を受けた。産業都市としても、ドネツィクと並んでウクライナ最強と言っていい存在だ。

 そんなドニプロペトロウシクだが、ことサッカーに関しては、やや「蚊帳の外」という印象を受けてしまう。まず、ウクライナを代表する大都市でありながら、本年に開催されるユーロの会場に選ばれなかった。また、地元サッカークラブの「FCドニプロ」の過去の成績を見ると、1993年の2位が最高であり、一度も優勝経験がない。第3位になったことは5回あり、これは全チームのなかで最多であり、さしづめ「ブロンズ・コレクター」といったところか。いずれにしても、シャフタール・ドネツィクおよびディナモ・キエフという2強からは、だいぶ水をあけられている。ウィンターブレーク中の2011/2012シーズンでは、残り10試合で、FCドニプロは現在第4位に着けている。

 ドニプロペトロウシクのサッカーがイマイチ盛り上がりに欠ける原因は、やはり強力なスポンサーの不在にあると言えるだろう。ドネツィクではアフメトフ氏のSCM財閥、ハルキウではヤロスラウシキー氏のDCHグループと、富豪が丸抱えすることにより、ユーロの誘致や地元クラブの強化に成功しているのに対し、ドニプロペトロウシクにはそれがない。ドニプロを地盤とする財閥としてはコロモイシキー氏のプリヴァト・グループがあるわけだが、ユダヤ人の同氏は国外に居住してドニプロ郷土愛などは示していないようであり、果てはプリヴァト銀行がディナモ・キエフのスポンサーとなる始末である。結果、FCドニプロは「ビオラ」などというジュースのメーカーにスポンサーになってもらっており、その資金力にはあまり多くを期待できそうにない。

 それで、2010年12月にドニプロペトロウシクに出張に出かけた際に、スタジアムの前を通りかかったので、例によってスタジアムの外観だけ写真に収めてきた。まあ、シーズンオフだったので、そこに熱狂などあるはずもないのだが、人影もない凍てついたスタジアムを眺めていたら、何やら盛り上がりきらない当地のサッカー事情を象徴しているように思えてならなかった。

 「ドニプロ」というチーム名の元になっているドニプロ(ドニエプル)川。ロシア・ウクライナ圏では川の名前がサッカーのチーム名になるパターンが多く、「川の文明圏」であることを感じる。
 「ドニプロ・アリーナ」。スタジアム自体はなかなか立派で、3万人強収容できる模様。
 チケット売り場。「ドニプロ・ウルトラ。熱烈に応援しよう。我々のセクションは、8、9、10」と書いてある。しかし、凍りついた無人のスタジアムからは、シーズン中の熱気が想像できなかった。

残留を余儀なくされた本田圭佑

No.0088 2012年2月2日

 日本のマスコミがあまりにも確定的な調子で伝えるので、私も本コーナーのNo.0086で「ついにCSKAを去る本田圭佑」というエントリーを書いたのだが、その後話が怪しくなり、慌ててタイトルに「?」を付け加えた。そしたら案の定、本田圭佑のラツィオ移籍は破談になってしまった。本件につき、さしあたりロシアの『スポルト・エクスプレス』紙のこちらの記事の要旨を、以下のとおり紹介しておく。

 2011アジア・カップの最優秀選手で、東洋のスターの一人である本田が、CSKAに残留することになった。少なくとも、夏までは。おそらく、長くても夏までだろう。半年後には、本田の話題がまた再燃することは疑いない。イタリアではCSKAとラツィオの合意が確定事項であるかのように報じられていたが、それは事実に反していた。ラツィオ側は不意に値引きの駆け引きを仕掛けてきた。どうやら、移籍ウィンドウが閉まる直前ゆえに、CSKAが妥協すると読み違えていたようだ。CSKA側は1,600万ユーロ、少なくとも1,500万ユーロは獲得したいと考えており、当初取り沙汰された1,400万ユーロや、最終的に伝えられた1,200万ユーロといった額には満足しなかった。

 CSKAのババエフ氏によれば、交渉は数日間暗礁に乗り上げていたものの、それでも本田はローマに行ってメディカルチェックに合格したりしていたと伝えられる。ローマ訪問に関しCSKA側の了承を取り付けていないということはあるまい。いずれにしても、今となってはどうでもよいことである。本田がローマに出かけようと、バルセロナに留まろうと、結局はモスクワに戻り、一両日後にはキャンプ地に向かわなければならないからである。

 チーム首脳陣は、本田残留を複雑に受け止めている。確かに、レアルマドリードとの対戦を前にして、本田のような切り札がいてくれた方が良いことは間違いない。他方、本田はもうチームを離れるつもりの選手であり、今回は残留と決まったものの、早晩退団は避けられない。本田が残留することで、試合に出るのは現時点で力が上の本田になり、これからもCSKAでプレーするつもりの若手の出番が奪われてしまうという弊害がある。

 CSKAのサポーターとしては、エースの残留に安堵しつつも、ヴァグネル・ラヴのようにピッチ上でプレーをサボったりしないかということが心配だろう。しかし、本田は自分に対する評価を非常に気にする選手なので、それはありえない。ただ、それでも、夢に見たラツィオ移籍が突然破談になってしまったことで、心理的な悪影響が残るのは不可避だろう。日本人をはじめとするアジア人のメンタリティは特有だが、移籍を考え始めたサッカー選手というのは、皆同じである。

 現時点で、CSKAのギネル社長とスルツキー監督の仕事は明確であり、それはロシアでの最後の半年をハードワークすることが、仲間たちも、そして自分自身も助けることになるのだと、かなりクセのある本田を説得することである。現在でもかなり高い選手としての値打ちがさらに上がり、ラツィオだけでなく、怪我前に名前が挙がったように、リバプール、ユナイテッド、アーセナルなどが関心を示すかもしれない。

 これは本田自身とも、CSKAとも関係ないことだが、もしも今回の移籍が成立していたら、この冬、ロシア・プレミアリーグからヨーロッパの主要リーグへの唯一の大型移籍となっていたはずだ。西欧のクラブはなぜかロシア・リーグから選手を獲得しようとしないからである。


プーチンの仲介でスポンサーを獲得したトミ・トムスク

No.0087 2012年1月31日

 ロシア・プレミアリーグの現2011/2012年シーズンで最下位の16位と低迷しているトミ・トムスクに、強力なスポンサーが付くことになった。このほど、国営石油会社ロスネフチとガスプロムネフチの合弁子会社であるトムスクネフチが、トミ・トムスクのスポンサーになることが決まったものである。今回の決定には、プーチン首相が関与したということである。こちらのニュースが伝えている。

 この記事によれば、トミ・トムスクは過去数年間にわたって経営難に苦しみ、リーグ戦に留まるための資金源を模索してきた。プーチン首相は過去2度にわたって実業界にトミへの支援を要請し、実業界は2度とも無償での支援には応じたものの、クラブの支出をコントロールするには至らなかったという経緯がある。今回は、まずプーチン首相が1月25日にトムスク工科大の学生らと対話した際に、トミにはロスネフチ、ガスプロムネフチという強力なスポンサーが登場するだろう、両者は明日にでもトムスク州行政府、クラブの経営陣と契約する用意がある、自分はすでに本件につき両社と話をしたと発言した。その翌日、クレス・トムスク州知事は州議会に向け、ロスネフチとガスプロムネフチの合弁子会社であるトムスクネフチがトミの財務と経営に責任を負うことになる、本件はプーチン首相の指示により決定されたと述べた。

 以上がニュースの概要である。ちなみに、トムスクネフチは、ともに国営石油会社であるロスネフチとガスプロムネフチが50%ずつを出資している合弁子会社で、トムスク州およびチュメニ州で石油開発を手掛けている。ただ、ガスプロムネフチの親会社であるガスプロムはゼニト・サンクトペテルブルグのスポンサーであり、FIFAの規定によれば1つの企業が同一リーグで複数のクラブのスポンサーになることはできないはずだから、その規定に抵触はしないのかという疑問は残る。それにしても、お節介な首相もいたものである。


ついにCSKAを去る?本田圭佑

No.0086 2012年1月29日

 報道によれば、ロシアのCSKAに所属していた本田圭佑が、イタリアのラツィオに移籍することが確定的という。まあ、本人にとっても、日本のサッカーにとっても、結構なことなのだろう。しかし、本田がCSKAに所属していたこの2年間、ロシアのサッカーが日本人にとって一気に身近なものになったことを思えば、私などには残念な思いもある。個人的には、過去1年ほど、ロシアのサッカーというものを明確に自分の守備範囲に位置付けるようになり、スカパー!でロシア・リーグの試合を観るのを習慣付けるようにしていた。おそらく、本田がロシアを去れば、スカパー!は同国のサッカーにあまり枠を割かなくなるに違いない。あくまでも個人的な都合だが、とても残念なことである。

 さて、本田の移籍につき、ロシアのマスコミがどんな具合に報じているのかなと思い、ざっとネットを見てみたら、とりあえず『スポルト・エクスプレス』のこちらの記事が目に留まった。実は、本田に加えて、現在ブラジル人FWのヴェグネル・ラヴがCSKAを離れようとしている。CSKAとしては、これから佳境を迎えるロシア・プレミアリーグの優勝争いに加えて、UEFAチャンピオンズリーグの決勝トーナメントも控えているなかで、攻撃の中心選手2人の移籍は大打撃であろう。

 いずれにしても、上掲の『スポルト・エクスプレス』の記事は、ざっと以下のように語っている。すなわち、ラヴに関しては、確かにスーパーゴールを決めることがあるものの、最近そうした機会が減っていて、手放すのもやむをえない。彼はまだ若いのだから、母国のブラジルでもう一旗揚げて、ブラジルW杯で代表選手として活躍するのを祈りたいし、CSKAのサポは君のことは忘れない。

 一方、本田に関しては、状況はより複雑である。CSKAとラツィオの交渉がどのような結果になろうと、CSKAにとってはプラスはあるだろう。しかし、マイナスに関しても同じである。本田はCSKAで最も上手い選手の一人で、パスもシュートもあり、サッカーを知っている。ゲームを支配し、しかるべきリズムを作れる。高いレベルのプロで、戦術を忠実に実行できる。しかしながら、マイナスの要素にも事欠かない。そのマイナスは、人格的な面にかかわっている。彼は入団当初は前向きで、なるべく速くチームに溶け込もうとしていたが、南アW杯での成功のあと、彼の気持ちはロシアの地から離れた遠いところに向かってしまった。彼はすでに自分のことを、バルセロナやマドリードのスターのように考えていて、現に手に携えていた日本語・ロシア語会話集を、日本語・スペイン語会話集に替えてしまった。現在本田は、チームワークの良いCSKAの中で孤立しており、以前のチームメートのために選手たちが募金をするような時ですら、本田には声がかからない。ただし、だからと言って本田が試合で手を抜いたりするようなことは決してなく、常に全力を尽くすのだが。CSKAのフロントは、選手の移籍の際に、常に妥当な金額を提示するが、問題はラツィオ側がそれを飲むかどうかだ。どうなったとしても、騒ぎ立てる必要はない。本田が残留ということになれば、一流選手がいて邪魔にはならないだろうし、彼の独特なキャラクターも、受け流せばいい。放出するということになれば、クラブには少なからぬ移籍金がもたらされる。それに、彼の代わりがいないということではない。まず、ジャゴエフがいる。また、4-3-3か、4-2-3-1(ラヴ移籍後にはこのシステムをとる可能性が高い)の攻撃的MFのポジションであれば、ママエフが充分にこなせる。

 このあと記事は、CSKAはラヴや本田なきあと、どんな選手を補強すべきかという議論に入っていくが、以下省略。


マテヤ・ケジュマンの選んだ花道

No.0085 2012年1月25日

 私の応援している清水エスパルスが現在、香港で「アジアチャレンジカップ」という親善大会を戦っており、1月23日のサウス・チャイナという香港のチームとの対戦の際に、相手チームのメンバーの中に「ケジュマン」という名前があった。ケジュマンと言えば、BATEボリソフにも同名の選手がいたなと思っていたところ、このケジュマンはBATEでプレーしていたマテヤ・ケジュマンその人だったということが判明。つい最近までベラルーシのBATEのユニフォームを身にまとい、UEFAチャンピオンズリーグでバルセロナ相手に戦っていた選手が、こうしてエスパルスの対戦相手の中にいるというのは、個人的になかなか感慨深い。

 私自身は、これまでケジュマンのことを良く知らなかった。チャンピオンズリーグの放映の際に、スカパー!のアナウンサーが、「BATEの中で世界的に名前が知られているのはケジュマンくらい」とコメントしているのを聞いて、ああそうなのかと思った程度だった。そこで、ざっとネットを眺めてみた。セルビア出身で、チェルシーやパリ・サンジェルマンなどでプレーしてきたFWケジュマンだが、そもそも2011年前半にはサウス・チャイナに所属していた、ということである。一方、BATEボリソフは、2011/2012シーズンのチャンピオンズリーグの戦いを控えるなかで、エースストライカーのロジオノフが怪我をしてしまったために、緊急補強でケジュマンを獲得したという経緯だった(CLでもベラルーシ国内リーグでも無得点に終わったが)。

 そして、こちらの記事によると、実はケジュマンは今般引退を決意し、香港のサポーターやスタジアムを愛する彼は、現役最後の2試合を香港で戦うべく、今回のアジアチャレンジカップ参加を決めた、ということのようである。

 元チェルシー所属のケジュマンと、元アーセナル所属のユングベリが、再び相まみえるという注目もあったようだが、うちのポンコツ外人が怪我で欠場し、それは実現しなかった。


ユーロの経済効果は期待外れ?

No.0084 2012年1月18日

 ウクライナの民間シンクタンク「Da Vinci AG分析グループ」は、四半期報において、同国のマクロ経済に関する予測を行っている。それで、その最新号で、本年6~7月に開催されるユーロの影響に関する分析を試みており、ユーロの経済効果は期待外れになりそうという評価を示しているので、その要旨を紹介しておきたい。

 これによれば、今日ウクライナは、ユーロの開催を観光産業振興への弾みとして本格的に利用するチャンスを逸している。国際的な投資環境の悪化と、政治的理由による外国人投資家のウクライナへの信認低下が原因である。

 ユーロ開催にかかわるウクライナの支出は、少なくとも140億ドルに上る。ウクライナの損失は、60億~80億ドルに上るだろう。これらの支出は、中期的にも回収不可能である。

 こうした経済的成果は、インフラが発達していない国が、大規模な国際的な行事を開催した場合に特徴的である。2004年の夏季オリンピック開催によるギリシャの損失は、約40億ドルだった。2010年のFIFAワールドカップ開催による南アフリカの損失は、30億ポンドに上った。

 現在のところウクライナ当局は、ウクライナへの観戦者の来訪数を判断しかねている。マックスの評価は100万人というものだが、我々の予測では、15万~30万人にとどまるだろう。それはひるがえって彼らがウクライナで落とすカネの額にも影響する。確かに、ウクライナで一次リーグを戦うチームは、ドイツ、英国、スウェーデン、フランス、デンマークと、経済危機による影響を比較的受けていない国ではあるが、観客たちがウクライナでそれほど多額のカネを落としてくれるということはあるまい。

 我々は、ユーロ開催後、2012年下半期にウクライナへの観光客流入が拡大し、観光業が大幅に活気付くこともないと見ている。観光業および中小企業の振興に弾みがつくことは考えにくい

  我々の予測の正しさを裏付けるかのように、政権当局も、ユーロの効果に関し、直接的な経済・投資の上積みではなく、大会の開催によるウクライナのイメージ向上、戦略的なインフラの発展という点を挙げている。だが、我々はイメージが向上したとしても、それが中期的にウクライナ経済にプラスに働くことはないし、インフラにしても永続するものではないと見なしている。

 ウクライナ経済発展省は、ユーロ開催によって2012年のGDPが0.8%ポイント、100億フリヴニャ押し上げられると予測している。だが、過去に大きなスポーツ大会を開催した国の実例に注目すべきである。そうした国では、大会のある当該四半期の成長率は減速し、大会終了後には成長率がさらに低下するかマイナスになるのが常であった。大会の後よりも、前の方が成長率は高いのであり、ウクライナについてもそのようなパターンが予想される。

 以上がDa Vinci AG分析グループによる分析であった。


2011年のロシアのスポーツ10大ニュース

No.0083 2012年1月3日

 ロシアのコーナーで、ノーヴォスチ通信の発表した2011年のロシアの経済および政治10大ニュースというのを紹介したが、スポーツの10大ニュースはこのコーナーに掲載する。こちらの記事によれば、2011年のロシアのスポーツ10大ニュースは以下のとおりとなっている。

●飛行機墜落でヤロスラヴリのホッケーチーム「ディナモ」の全選手が死去

●サッカー・ロシア代表、ユーロ2012本大会への出場を決める

●アイスホッケー・ロシア代表、世界選手権でメダル逃し監督交代

●9月、ビーチサッカーのW杯でロシア代表が初優勝

●スピードスケートの総合選手権でI.スコブレフがヨーロッパおよび世界の王者に

●FIFAのブラッター会長、4選される

●ラグビー・ロシア代表、W杯に初出場するも全敗

●2011年には4人のロシア人選手がボクシングの世界チャンプに

●2015年の水泳の世界選手権はタタルスタンのカザンで開催されることが決定

●ロシア初のF1ドライバーV.ペトロフ、オーストラリアGPで初めての表彰台


サッカー紀行8:原野に出現したリヴィウ新スタジアム

No.0082 2012年1月2日

 ユーロ2012に向けたウクライナの準備が遅延するなかで、最も懸念されていたのがリヴィウにおける新スタジアムの建設である。先日のウクライナ出張でリヴィウを訪問し、新スタジアム「アリーナ・リヴィウ」の外観だけ眺めてきたので、それを報告したい。

 新スタジアムの収容人数は34,915人であり、2008年11月から2011年10月にかけて建設が行われた。すでに完成したということになっているが、私が12月に訪れた時にはまだスタジアムでもその周囲でも様々な工事が行われており、遠くからしか眺めることができなかった。

 新スタジアムは、リヴィウ市の南の郊外に位置し、市の中心部からはやや外れている。距離的には、中心からそれほど遠いわけではないのだが、原野のようなところに建てられたので、人々の日常の営みから隔絶され、ちょっと寂しい感じがする(その意味では日本の郊外型の大スタジアムと似た雰囲気)。ウクライナの他の会場では、キエフでもドネツィクでもハルキウでも、市内のホテルから歩いていくことも充分に可能だと思われるが、リヴィウだけは交通手段に頼らざるをえないだろう。

 ところで、No.0060の記事で、地元のクラブ「カルパティ」が今後この新スタジアム「アリーナ・リヴィウ」を本拠地として使用するかどうかは未定だということを述べた。その後、一応は本拠地として使用する方向に進んでいるようで、12月10日にはウクライナ・プレミアリーグのカルパティVSディナモ・キエフ戦が開催され、これが新スタジアムのこけら落としとなった。

 現地を視察した私の感覚から言うと、郊外型のアリーナ・リヴィウは、国際的な大イベントにはいいかもしれないが、週末ごとに地元サポが集うクラブの本拠地としては、やや微妙な気がする。これまでカルパティが使用してきた「ウクライナ・スタジアム」の方が、市街地の中にある分、立地は有利だろう。

 これが新スタジアムの遠景。スタジアムの周りにはなにもない。幹線道路を隔てた向かい側には、巨大ショッピングモールがあるが。
 これがアップ映像。こけら落としは済ませたものの、まだ色々と工事をやっている様子だった。
 こちらが、これまでカルパティが本拠地として使っていた「ウクライナ・スタジアム」の外観。
 ただ、ウクライナ・スタジアムはかなり旧式な施設であることは否めず、外壁などがボロボロである上に、鉄条網が張り巡らされ、何やら刑務所のような佇まい。カルパティはユニフォームも格好良いし、おしゃれなクラブのようなイメージを抱いていたが、それに反する場末的な雰囲気だった。
 こちらは、旧市街の一画にあったカルパティのファンショップで、洗練された雰囲気。ミニ博物館も併設。